第二十五話 小学校のお友達
今日は学校から帰ってきて、例のごとく買い物に行っていた。
とても曇っていて、今にも雨が降りそうな感じであったが、まあ、大丈夫でしょ。
とりあえず、何の変化もない日常だ。
そんなことを考えてぼうっと歩いていると、ひそひそと声がした。
振り返ってみると、小学校のときに同じクラスだった、私立中に行った女子二人がいた。
「あのー、もしかして、藤本君?」
「あ、えっと…うん」
「やっぱり!女の子の恰好してるからびっくりした!」
「どうしたの?そんな恰好して」
「実は、中学になってね…」
それから、今まであったことを話した。
人に話してみると、自分はなんでこうなってしまったのだろう、と逆に不思議に思った。
そして、なんでこんなにすんなり受け入れているんだろう。
その女子たちは、時折、へえ、とか、まじ?とか少ない語彙で相槌を打っていた。
話し終わると、その女子たちは、目を丸くして、驚いていた。
でも、なんだかすんなり受け入れてくれたようでもあった。
「へえ、藤本くん、小学校の時からかわいくて女の子みたいだったもんね。全然違和感ないもん」
「ほんと。普通に今もかわいいよ」
「あ、ありがとう…」
「それで?藤本くんは結局女の子になりたいの?」
一人は、すごくストレートな人だから、突っ込んだ質問とか平気で訊いてくる。
え…っと…
確かにね。なりたいっていうか、今楽しいから、それでいいや、ってごまかしてたけど、本当になりたいのかな。
でも、男の頃に戻るのはなんだか怖い気がして、考えないようにはしてた。
本当に今中途半端な気持ちなんだよなあ。
でも、高校受験はどうする?
こんな格好で男とか言ってもおかしいでしょ。
でも、戸籍の性別変更とかっていろいろ手続きが必要なんじゃ…。
でもこう考えてるってことは、女になりたいのか?
男の自分はもう捨てたのか…?
「どうしたの?急にぼーっとして」
「え?あ、ごめん」
「質問の答えは?」
「ああ、まだよくわかんないっ」
「ふーん。まあいいけど」
「そういえばさあ、うちの学校の学年に女の子になりたいって人いたよね?」
「あ、いたかも」
「なんか、性同一性障害…だっけ?そんなこと言ってた気がする」
「そうなんだ。まあ、最初見たとき、藤本くんみたいな感じだなって思ったけど」
「それってどういうこと!?」
「まあ、女っぽい男?いや、女なのか。まあ、そんな奴」
いまいち伝わってこない。
私はそれを聞いて、思ってもいないことを言っていた。
「会ってみたいな…」
会ってみたい?でも、そういう人としゃべってみたいとは内心思っていたのかも。
ちょっといいかも、それ。
「なに?藤本くん、そいつに会ってみたいの?じゃあ、今度会ってみればいいじゃん。今度そいつに聞いてみて都合がつきそうなら藤本くん家に電話かけるから。藤本くんはいつなら都合つく?」
「平日は無理として、土曜日はピアノあるから…午後四時以降とか。日曜日は一日中空いてる」
「OK。じゃあ、そのように言っとくよ」
「ありがとうございます」
私はちょっとぺこりとお辞儀した。
「ところで、藤本くんは今日は何をしていたの?」
「ああ、ちょっと買い物にね…。今日は私がご飯作るから」
「お前ほんと女みたいになったな。あ、もう女なんだっけ?」
「まあ、えっと…」
女みたい。
そう言われるのが、結構うれしかった。
「照れるなって!自信持て。女になりたいんなら、それこそ逆に強くならないと!」
「いや、強いのは知里だけでしょ…」
そういえば、この女、知里って名前だったな。
「っていうか、さっき、わかんないって言ったんだけど…」
「そうかあ?まあ、いいんだけど」
「まあ、ひとまず、今日は解散ってことで」
「おう!そうだな!またね、藤本くん。また連絡する。今日はお前と話せて楽しかったぞ」
「じゃあね」
そうして二人と別れた。
小学校でほとんどしゃべったこともなかったのに、すごく気さくな人だ。
そして、男勝りなとこも面白い。
彼女の長い髪がさらさらっと揺れた。
私も歩いて家に帰った。
しかし、彼女の言っていた、私に似ているという人はどんな人だろう。
あんまり想像できない。
きっと話したら楽しいかな。
料理をしていたらちょっとばかりやけどした。
でも、そんなことを気にする余裕もなかった。
とにかく、彼女とまた、そして彼女の言っていた彼、いや、彼女?わからないけど。と会うのがすごく楽しみになっていた。
今日作ったお肉と小松菜としめじをバターソテーにした夕飯はお母さんはとてもおいしく食べてくれていた。
もちろん、お父さんも、無言でがっついていた。
そろそろ、将来についても考えていかないといけない時期なのかもな…。
と、結局大事なことを考えるのはまたあとでにし、ご飯を食べて布団でぼうっとした。




