第十九話 年末のスーパーマーケット
ふう、あったかくて気持ちいい。
出たくないなあ。
えっと…みかんは…っと
皮をむいて何房あるか数えて、一房ずつ、もしくは二房ずつ取ってパクリ。
う~ん、おいしいー
「あ~きいいいい~」
そこに、恐い顔をした母がやってくる。
今日は、ある冬の一日。
12月30日という、とても年末の日だ。
そんな日だっていうのに、私はずっとこたつの中でダラダラしている。
冬は、とてつもなく苦手で、こたつからできれば出たくない!
でも、冬休みの宿題もあるし、何しろ年末、お正月と続くので、大忙しのはずである。
「そんな暇そうにしてるなら、大掃除手伝ってよ!」
「だって~寒いんだも~ん」
少し田舎の町に住んでいるから、都会とは気温が何度か違って、とてつもなく寒いのだ。
「動いてればあったかくなるから!ほら、ここ拭いてー」
「はーいい」
そして、やっとこさの思いで、布団から出た。
今まで食べたいくつものみかんの皮を捨て、母のもとへ向かう。
「冬休みだからって、ずっとダラダラしてると、体なまるわよ」
「大丈夫だよー」
「今年も色々忙しいんだから、また手伝ってね」
「はーい」
「あ、そうだ、今年は女の子になった記念に、一緒におせちつくってみようか!っていうか、つくってね」
「え?ほんとに?」
「ほんとだよ!力仕事はほぼ全部お父さんに任せるから、あきは私の手伝いをしてちょうだい」
「わ、わかったよ…」
床や壁を拭きながら、そんな話をする。
大掃除が終わると、お正月の飾りを玄関につける。
そして、ちょっとほっとする。
「あき、ありがとうね」
「いや、大丈夫大丈夫」
そして、お昼ご飯の時間だ。
ご飯に、生野菜のサラダに、スープという、いたって普通のシンプルなご飯だ。
これは、お母さんが作ってくれた。
お昼ご飯を食べ終わると、私はまたこたつの中でごろごろし始めてしまう。
「まだまだ明るいんだし、外でも行って来たら?」
「え~やだよ、寒いから」
「中学生になったからと言って、まだ若いんだから、外でにっこうでも浴びておかないと、損するよ」
「え~。外に行っても特にすることもないんだけど」
「することならあるわよ」
そう言って、母はエコバックを取り出した。
ああ、ああ、お買い物ね。
「わーったよ、しょうがない、行ってくっか」
「それが女の子の態度?」
「あ、はいはい、わかりました」
そして、こたつから十五分くらいかけて出て、買い物袋とお金とメモを持って、外に出た。
う~寒っ!
こんな日にスカートなんかで出るんじゃなかった。
足元すっごい寒い!
今日は一日外でないつもりだったからスカートにしたのにな…。
そうやっていろいろ文句を一人でつぶやきながら、歩き出した。
私の家から一番近いスーパーまで、徒歩五分くらいで着く。
いつもそこで食材などを調達しているのだ。
スーパーに入ると、さすが暖房がよく聞いていて、楽園だった。
お肉コーナーとか冷凍食品コーナーとか言った時は死ぬかと思ったけど。
途中、コンソメのコーナーにいたら、中山くんがいた。
「お、藤本じゃん。なんか、こうやって話すの、久しぶりだな」
「中山くんもお買い物?偉いね」
「いやあ、俺は親に頼まれて嫌々な」
「そっか~それなら私も一緒だわー」
「藤本ってこういうの自主的にやりそうだけどな」
「いやいや、寒いから、できるだけ外出たくなかったのにな」
なんか中山君が少々顔が赤くなっているような気がする。
「ふ、藤本…なんか、今日、か、かわいいな」
なんですと!
驚きしかなかった。
でも、嬉しいは嬉しいな。
かわいいって言われて喜ばない人はいないよね。
「ありがとう」
ちょっとだけ上目遣いをしてやった。
「じゃ、じゃあな」
「ばいば~い」
そして、買い物を続けた。
スーパーはすっかりお正月ムードになっていて、私の買っているものも、栗やら黒豆やら、おせちに入れそうなものだった。
これを使ってあとで作るって思うと、ちょっと楽しみかも。
そして、買い物を終わらせて、スーパーの中にあるコーヒーのブラックを飲んで、落ち着いてから帰った。
色々持っているので、大変だ。
「お嬢さん」
という男の人の声が聞こえたが、私だとは思わないので、スルーしてたら、もう一度、
「お嬢さん」
と、今度はさっきよりも近くで聞こえたので、これは、私に向かってだな、もしや、何かあぶないやつかと思って、振り切っていた。
なんだろう、恐い恐い。
と思っていたら、
「手袋、手袋、お嬢さん!」
と聞こえたとたん、私は手袋をしていなかったので、あ、と立ち止まり、振りむいた。
「あ、よかったよかった。さっきのコーヒーのところのテーブルに忘れていたよ。すたすた行っちゃうもんだから、焦ったよ」
「あ、すみませんでした…ありがとうございます!」
それだけ言い切って、恥ずかしさのあまり、逃げるようにスーパーを出てしまった。
さすがに買い物袋を持ちながらは重かった。
お嬢さん、って言われたのは、ちょっと慣れてなかったから、びっくりしたな。
やっぱり冬の暖かいところはボーっとしてしまうのだな。
あああ、寒い寒い、
と、さっさと家に帰った。
「おかえり、あき。変な人に会わなかった?」
最近母はすぐにこうきいてくる。
そんな、そうそう会わないって。
「忘れた手袋を届けてくれた」
「あら、優しい。きっとあきがかわいくてかわいそうに思ったのね」
「う、そうなのかな?あと、中山君にも会ったよ」
「そうなの。きっとあきのことかわいいって言ってたでしょ」
「え、うん、なんでそれを…?」
「だって、今日のあき、いつもよりもさらに一段と可愛いもん!」
「そ、そうなんだ…」
それから私は、冬休みの宿題をちまちまやっていた。
お父さんが帰ってくると、お父さんも私のことを可愛い可愛いとべた褒めしていた。
そんないつもと違うかな…。
そして、明日のお正月の準備のために、早く寝た。




