第十五話 お買い物
私はそう言われ、少し考えた。
私服の女子の服でどこへ出かけると思うと、なんだろう。
女子の服出ないとできないこと…うん、それだ。
服を増やすのだ。
でも、母から逃げられそうのもない。
まあ、買ったとしても、そこまで…ね?
「わかった?」
「うん、わかったよ。服でしょ。服買いに行くんでしょ」
「う、うん、まあね」
「どこまで行くの?」
「Yデパートだよ」
「やっぱりね」
「Yデパートなら、服屋はいっぱいあるでしょ?それにしt…」
「それ以上は!」
なんか危ないことを言いそうなので、慌てて止めた。
「まあ、服が増えたら、あきちゃんもさらに可愛くなって…楽しみだなあ」
「うう…」
恥ずかしいが、それでもちょっと楽しんでいるのかも。
「着いたよ」
シートベルトを外し、車の外に出る。
心臓がとてもドキドキしている。
それは、緊張なのか、期待なのか、不安なのか、罪悪感なのか、自分でもよくわからなかった。
「ほら、行くわよ」
「あ、はい」
答えて、歩き出した。
すると、前から見慣れた顔の人が近付いてきた。
同じクラスの蓮間霧子だ。
私はこの人のことが少しに苦手である。
こちらに近付いてくる。
すると、蓮間さんはそのまま素通りした。
私は、ほっとした。
そう思ったが、後ろから声が聞こえた。
「藤本さん」
「な、なんですか…?」
蓮間さんはそういうと、私を全身見て、
「いいんじゃない、そういうのも」
そう言って、行ってしまった。
それから母を追いかけたが、蓮間さんの、上から目線のあの言葉の意味がよく分からなかった。
デパートに入り、そのまま少し進んだ。
この格好でこういうのは慣れているので、ここでもみられるのはすぐ慣れた。
母に連れられやってきたのは、まずは服屋の有名チェーン店、ユミシロであった。
ユミシロは、けっこういろんなものが売っていて、楽しい。
試着とかしながら、ばんばんとかごに入れていった。
結果、レディースズボン5本、ショートパンツ4個、膝下スカート一本、膝上スカート3本、ミニスカート1本と、Tシャツを6枚ほどで、諭吉先輩が8人飛んだ。
その後、鳥村や、おしゃれな服屋を回り、膝上スカート3本、膝下スカート1本、ズボン1本、Tシャツ3枚、カーディガン2枚、上着3枚を買い、諭吉さんが5枚追いかけていった。
「おなかすいたあ」
「そういえば、食べてなかったね」
「うん」
「そこで、お昼ご飯食べよっか」
そう言って、おしゃれなカフェに入っていった。
「楽しかったねえ」
そう母が言うと、私は複雑な思いになる。
「まあでも、デパートに来る自体は、楽しいけど…」
「それならよかった」
「ただ、私が心配なのが…」
「なに?」
「今日、諭吉さん、何枚飛んだ?」
「ん?13枚だけど?」
「どの位返ってきた?」
「英世さんが4枚くらい」
やはり、すごい量を買っていたようだ。
「どこから出てきたの…?それ…」
「貯金だよ」
!?
「じゃあ、前々から計画していて…?」
「うん」
「はあ」
「だって、あきがちゃんと女の子になれるチャンスだもん」
「それなら、もっとあとでもいいんじゃない?」
「いや、早めの方がいいし」
「なんでこんなに女子になってほしいの?」
「だって、あきは可愛すぎるし、男の子としては、違うんだもん。女の子として育ててったつもりだし」
確かに、今まで、髪はそこまで切らなかったし、セットの仕方とか教えられたこともあった。
他にも、私がおしとやかになるような生活の仕方とか、知らない間に体に教え込まれていた気がした。
私は別にそれは苦ではなかった。
しかし、いざこうして考えてみると、難しいところである。
「お母さんは、あきには女の子として育ってほしいんだよね」
「そうなんだ」
でも、もう私は実質ほぼ女としての生活を送っている。
プライベートまで女子となると、もうそちらに移行せざるを得ない。
では、今このような服を着て、嫌がっているか?
いや、そんなことでもない。
私は…私は何がしたいんだろう。
このまま女子になっていくのも悪くはないかな。
普通なら反抗するのかもしれないが、なぜか私はそんな気は起こらない。
母の言う通り、本当に女子として育てられていたのかもしれない。
とにかく、私は今この状態を結構楽しんでいる。
男子のときよりも。
「あき」
「なに?」
「あきも!本当は女の子になりたいんじゃないの?」
!!
そ、そうなのかもしれないなあ。
「私だって、やらされてる感あるけど、何て言うか、今の状態がちょっと楽しいっていうか…」
「…そっか。じゃあ、服、無駄にならなくてよかったね」
「ま、まあ、そうだね。買ったやつはせっかくだから着てくし…」
「よかった。食べた?じゃあ、帰ろうか。」
「うん!」
まあ、その複雑な気持ちは、おいおい考えていこう。
そう思い、席を立って、外に出た。
問題が一つあった。
「お母さん」
「ん?なあに?」
「トイレ…行きたい…」
「じゃあ、一緒に行こう」
それから私たちは、車に乗って帰り、買ったものを広げていった。
「じゃあ、あき、これ全部着てみて。」
「はーい」
抵抗は、やはりなかった。




