第十一話 月曜日―登校
朝、私は、お母さんの叫ぶ声で、起こされた。
「亜貴ー!起きて―!早く早く!」
時計を見ると、まだ七時前だった。
いつもなら七時半に起きれば学校も余裕で間に合うものの、今日は起こされた時間が早かった。
「え!?まだ大丈夫だよー」
そう言って、また寝ようとする。
そうすると、お母さんが私の寝ている部屋に入ってきた。
「亜貴、昨日は早く寝かせたでしょ。香華ちゃん来るんだから」
「え!?香華来るの?」
「昨日言ったじゃない」
ほんとにそんなこと言ってたかな・・・。
「昨日、寝る前に、言ってたじゃない」
「え、そうだっけ・・・眠かったからなあ」
「ま、とりあえず、七時四十分に香華ちゃん来るから、早く早く」
「・・・早くない?」
そうして、お母さんは、さっさと出ていった。
もう、勝手だな・・・。
そう思いつつも、私もいつものように、制服のかかっていくところに行った。
まず、上半身を着替える。
寝ぼけ眼なので、思考力低下中だ。
そして、下半身を着替える。
足を通して、腰を合わせて、左の腰のあたりでホックを閉めて、チャックをその下で閉めて・・・ってあれ?
このズボン、こんなにひざにあたったっけ・・・。
いや、違う。
これは・・・・・・
「亜貴ー!早くー!朝ご飯出来てるわよー!」
スカートだ。
あれ、いつもならここにズボンがかかっているはずなんだけど・・・。
・・・・・・・・・・・・ええええええええええええええええ!!!!!!!!????????
すかああとおおおお!?
慌てて自分のズボンを探す。
でも、ない、ない、なああーーーーーい!
もう時間もないし、どうしよう!
まてよ。このスカート、香華のなんじゃ・・・。
しかし、自分のバッグの中に入れたきょうかのスカートは、ちゃんとある。
じゃあ、これは・・・。
名前の所を見る。
誰のなんだ・・・返さなきゃ。
しかし、その名前に書いてあったのはまさかのまさかだった。
―1年2組 藤本亜貴
・・・え?
もう、わかんなああーーい!
とりあえずこの姿で、お母さんに聞くか!
「お母さん!どうなってるの!?」
「あら。相変わらずかわいいわね」
「そう?ありがとう。ってそうじゃなくって!」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないでしょ!どうして私のズボンはないの!?」
「ああ。まずそこか。もう家にはないわよ」
「どうして!?」
「いとこの泰ちゃんが、欲しいって言って、あげた。ほら、泰ちゃん、もうすぐ中学生でしょ」
泰ちゃんとは、私のお父さんの兄の息子で、私のいとこにあたる。
本名は、藤本泰平だ。
「え・・・そうなの・・・」
ならば!今すぐ泰平に電話だ!
・・・でも―
「電話しても無駄よ。泰ちゃん、すごく気に入ってたから。あき姉にも渡さないって!」
泰平は、昔から私のことを、あき姉と呼んでいる。
何でかというと、私を初めて見た時が、不運なことに香華のせいで、女装姿だったからだ。
「う~ん」
「大丈夫よ!かわいいから!」
怖い・・・お母さんが香華化している
「あと、名前のところにある、藤本亜貴って・・・」
「だから、そのスカートは、亜貴の物よ」
「・・・」
一体、どうなってるんだ!
「とりあえず、早く朝ごはん食べて、学校に行きなさい」
「え、でも・・・」
「詳しいことは、香華ちゃんに聞きなさい」
「香華は知ってるの?」
「・・・ま、まあ、とにかくご飯食べて。もうすぐ香華ちゃん来るよ」
いやいやいや。
合唱祭の時は何となく理解ができたけど・・・
なんだろう。
どうなっているんだろう。
色々考えながら、ご飯を食べる。
え、でも・・・
今までなんか成り行きに乗ってただけだったけど・・・
「もしかしてっ今日はこれで行くの?」
「そうよ。だってしょうがないじゃない」
え~。う~ん。そっか~。
ま、まさか、昨日追い出すように塾に行かせたのも!
「昨日、私が塾に行ってる間、何してたの・・・?」
「これを買いに行っていた。」
「・・・」
「あ、そうそう。香華ちゃんとも電話でお話しした」
あ、どおりで、電話が全然つながんなかったわけだ。
「ま、詳しいことは香華ちゃんに全部聞いて。お母さんも忙しいんだから」
実行犯は誰よ!とは思ったが、時計の針は七時三十八分を指していたので、ご飯を食べ終え、急いで支度をする。
そしたら、家のインターホンが鳴った。
『こんにちはー。神田香華です』
「あっ香華ちゃん。ちょっと待っててね。ほら亜貴、香華ちゃん来たわよ」
「う、うん・・・」
外に出てみると、合唱祭の日の時と同じように、玄関の前に立っていた。
「香華!どういうこと!」
「ふふふ。とりあえず、いこっか」
やっぱり、香華もお母さんと同じように、企んでいた様子だ。
しばらく二人で歩く。
香華が口を開いた。
「どう?」
「いや、どうって・・・まず、どうしてこうなったかを教えてほしい」
いや待てよ。私が今することは・・・。
「その前に、これ返す。」
「おお、ありがとう。一回うち寄るね」
香華はそうして、香華の家の中に入っていった。
戻ってくる。
「それで?どうしてこうなったの?」
「合唱祭の時、スカート姿のあきちゃんを見た同級生や先生、何なら先輩も大好評だったの」
「・・・で?」
「それで、日常でもそのままでいて欲しいなって声が続出して」
「・・・」
「先生にも承諾済みよ!」
「!!」
「無料伝言アプリで、一部の人たちとクラスのグループにも言ってある」
そして、私はスマホを持っていない。
だから、そのアプリのグループには入れない。
それで、知らない・・・
「で、でもお、なんでこうなるんだあ!」
「それは・・・あきちゃんが男の子だと、変だから」
「変ってなんだぁぃ・・・」
私の声がなぜか小さくなっていく。
嘘だ・・・
私は・・・無意識のうちに・・・この状態を気に入っているのか・・・?
「あ~きちゃん!」
ッ!
私は、女なのか・・・?
かわいいって言われると、とっても嬉しい。
あき姉と呼ばれても、別に違和感はなかった。
もともとは、女だったのか・・・?
変な考えにとらわれてしまっている!
「でも、どうやって計画して、どう実行したの?」
なんかもう・・・受け入れている・・・
「昨日、私はあきちゃんのお母さんに、電話をした」
「もしかして、あの電話が何か関係しているとか・・・」
「そう。最初にかけたときは、あきちゃんいたでしょ」
「うん・・・そっか!だから追い出すように塾に行かせたわけか!」
「そこはまあわからないけど・・・とにかく、二人だけで話したいって言ったの」
「うん。それで?」
「で、あきちゃん用のスカートをを色々言葉ならべて買ってもらうように言って・・・」
「あ、で、これをお母さんが買ったんだ」
「あきちゃんのお母さんも喜んでた感じだった。息子より娘の方がよかったって思ってたこともあったらしいから」
「それで、私のズボンは何でいとこの所にあるんだ?」
「さあ、それは知らん。月曜日の朝までにはズボンを制服の置き場からなくすように言っただけだから」
「そうですか・・・」
ちょっと恥ずかしいところもあるが、なんか慣れてくるとこれもいいかもって思ってきた。
・・・待てよ。
なんで「いい」と思ってんだ。
私はやっぱり・・・
そうこうしているうちに、学校に到着していた
「さ、入りましょ」
ま、大丈夫だ!
明日になれば・・・はわからないけど、とにかく、長くは続かないだろう!
とは思っていたんだが・・・
ちょっと今までより長くなってしまいました。
頑張って読んでくださり、ありがとうございます。




