第十話 合唱祭の週末
―合唱祭が終わった週末の日曜日
私は、お昼ご飯を食べて、一息ついたところだった。
突然、家の電話が鳴った。
電話には、お母さんが出た。
「もしもし」
『もしもし、藤本さんのお宅でしょうか』
「はい」
『神田香華です』
「香華ちゃん!どうしたの?」
『亜貴くん、いますか』
「あっいるよー。代わる?」
『いえ、大丈夫です。いないときにお母さまと二人だけで話したいので』
「あら、そう。じゃ、いなくなったらこっちからかけ直すね」
『ありがとうございます』
そうして、電話が切れた。
電話は、今私がいる場所から少しだけ離れているので、内容は私にはあまり聞こえなかった。
お母さんが戻ってくる。
「誰だった?」
「香華ちゃん」
「え!?なんか言ってた!?」
「さあ。やっぱり後で用件言うって言ってたから」
「そっか・・・」
「それより、今日は塾行かなくていいの?期末テストも近いんでしょ?」
「え~でも今日はいいよー」
「お母さんも亜貴がそこにいると色々と大変なの」
「そうなの~?」
「あと、亜貴、テストやばいんでしょ?」
「うっまあ・・・」
「今回こそは真面目にやってみなさいよ。成績上がるの見たら、自分でもうれしいでしょ?」
「そうだね。じゃあ行くか!」
そう言って、準備をした。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
そして、家を出て、自転車をこぐ。
今日は太陽がよく当たっていい天気だ。
―でも、香華は何で電話してきたんだろう・・・。
私、何か悪いことしたかな。
自転車をこいでいると、佐藤くんと晴海が歩いているところを見かけた。
「よっ。亜貴」
「晴海ー!作実ー!やっほー」
「やあ。あっきー。」
「なんかこうしてちゃんと晴海たちと会うのも久しぶりかもね」
「まあ・・・確かにな・・・。同じクラスなのに、あんましゃべってなかったな。」
「あっそうだ!あっきー合唱よかったよ!ソプラノきれいだった!」
「うん!ありがとう!」
「ピアノもありがとう!大貢献だね」
「いや・・・そんなでもないっしょ。みんなで頑張ったんだから」
「っていうかあの格好どした」
「ああ!晴海、やめて!」
「いや~かわいかったよ~」
「いや、そんなつもりじゃあ。嬉しいけど」
「えっ何が!?」
「えっいやいや。かわいいって言われると嬉しいってこと」
「えっそうなの?俺、かわいいって言われるとなんかあんまいい気分になんないけどな」
「え!?晴海は言われたくないの?」
「うん。あんまり・・・」
「僕は言われるとちょっとだけなら嬉しいぞ!」
「あ、やっぱり!作実はわかってくれるなあ」
そんな会話をしていたら、時間はあっという間に過ぎてしまった。
「じゃあ、私は塾に行くから」
「うん。じゃあなー」
「またねー」
そうして、別れた。
塾に行くと、三年生と先生以外は、誰もいなかった。
私は、ふと、勉強をしながら考えた。
そういえば、お母さんは私に休日は塾に行けなんて言わないのに、今日は何であんなに行かせようとしたんだろう。
私がいたら不都合なことでもあったのかな・・・。
とりあえず、ちょっと電話してみるか。
ところが、何度家にかけても、話し中だった。
お母さん、誰とずっと電話してるんだろう。
お母さんの携帯にかけても、出ない。
そういえば、さっき香華の電話で、あとでかけるって言ってたな。
こんな長電話する用事なんだろうか。
香華と何があったかは気になりつつも、勉強しておく。
三・四時間経ったところで、帰りの支度をする。
お母さんに電話をする。
今度はかかった。
「もしもし」
『もしもし』
「今から帰るねー」
『え!もう帰るの!』
「うん」
『悪いけど・・・あと十分くらい待ってくれない?』
「えっ何で」
お母さんは少し慌てている様子だった。
『まあ。とりあえずちょっと待って』
「は~い」
とはいえ、私は早く帰りたいのだ。
でも、言われた通り、ちょっと待ってみる。
もう一度、家にかけた。
『もしもし』
「もう塾でていい?」
『あっうん。いいよー』
お母さんは何かたくらんでいるような・・・なんか嬉しそうだ。
そうして、塾から出た。
家に帰ると、お母さんはいつもの通り、コーヒーをすすっていた。
う~ん。気のせいか。
夜は、明日の準備をして、今日は早めに寝た。
この週末は、なんだかちょっとそわそわした感じだった。
ま、電話のことは、明日香華に聞いてみよう。




