03 ―ティアノイア―
一年に一度行われる祭り。
ティアノイアの生誕祭。
新しく生まれ落ちた命達が、健やかに、良い人生を歩めるようにと、祈り捧げる為のもの。
昔。
その昔。
誰も知らない過去の話の中、神話の時代に女神になる定めだった少女がいた。
少女の名前はティアノイア。
病める人々を、傷つく人々を癒す力を持っていた。
膝を落とす者に手を差し伸べ、倒れた者を助け起こす。
命を拾い上げ続けた少女は、いつしか女神と呼ばれるようになった。
けれど、そんな少女にも救えぬ命は存在した。
それは、全てが凍て氷つく冬の季節の事だった。
星屑の綺麗な水晶連なる里の奥。
生まれ落ちた双子の赤ん坊は、今すぐにでも死に呼ばれそうな状態。
ティアノイアは、すぐに手を差し伸べた。
しかし、少女の手は一人しか掴めない。
選ばれた赤子は助かり、そして選ばれなかった赤子は死に見入られてしまった。
――ああ、なぜに
「私の手は一度に一人しか誰かの手を掴めないのだろう」
かつて、
全ての人を癒したいと願った少女がいた。
全ての人の手を掴みたいと願った少女が。
彼女の名前はティアノイア。
人でありながら女神と呼ばれるようになった、悲しい奇跡。