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2話「童貞勇者って呼ぶな!」

僕ら3人が日本からこの世界に召喚されたのは、今からちょうど3年前のことだった。


「勇者様がた!どうかこの世界を邪悪な魔王からお救いください!」


召喚された僕らが最初に聞いたのは、そんなお決まりのセリフだった。

僕ら3人は歓喜した。勇者召喚と言えば異世界物の小説ではテンプレだ。召喚された主人公は異世界でハーレムを作って楽しく暮らす。僕らにもそんなチャンスが巡ってきたんだと思った。

召喚主は生憎と美少女じゃなくて年老いた御爺さんだったけど、そんなこと気にならないほど舞い上がっていたんだ。


御爺さんの話では、魔王を倒した後は元の世界に帰るもこの世界に残るも自由ってことらしかった。

僕らを召喚するときに使った道具。それを使えば僕らは問題なく元の世界に帰れるらしいのだ。しかも時間も僕らが召喚されたその時間を指定して帰してくれるらしい。だから僕らは元の世界のことなど抜きにして魔王を倒すかどうか決めることが出来た。


もちろん僕ら3人には異世界召喚のお約束、チート能力が授けられていた。


僕には『勇者』としての能力。

ユースケには『剣聖』としての能力。

ヒロユキには『賢者』としての能力。


どれも強力無比、この世界の人間からすれば破格の能力だった。


そんな物凄い力を得たことも背中を押したのか。

僕ら3人は魔王討伐を快諾した。


だってそうだろう?

魔王を倒せばきっと女の子にモテモテだ。

しかも好きな時に元の世界に帰れる。

力だってある。

こんな好条件で、首を縦に振らないわけがなかった。


魔王を倒すためには、授かったチート能力だけでは力が足りない。

僕らはモテるため……もとい魔王討伐のために必死で修業した。


そして3年が経ち。

十分な力をつけた僕らは魔王領へと攻め入った。


激闘の末、見事魔王を討伐した僕らは英雄になった。

元の世界に戻るための魔道具はそのとき魔王に壊されてしまったが、僕らはあまり気にならなかった。

だってもう3年もこっちの世界にいるのだ。3人とも孤児だったし、こちらの生活に馴染んでしまっており、元の世界に帰れないことは僕らにとってあまり重要なことではなかった。


魔王を倒して凱旋した僕らを待っていたのは、民衆たちの歓声だった。

長い間、魔王率いる魔族に苦しめられてきた民衆たちにとって僕らの存在はまさに救世主だ。


国王も僕らの功績をたたえてパーティを開いてくれた。

僕はこのパーティのとき、初めて会ったお姫様に結婚の申し込みをして断られたのだが……それはまあ、この際どうでもいい。


パーティが終わったあと、僕らは国王に呼び出されて「この国に仕えないか」と誘ってもらったが、僕らは丁重にお断りした。

僕らの力は強大すぎる。この力が一国に集中してしまえば、今の国家間のパワーバランスが崩れてしまう、みたいなことをユースケが言っていたけれど、僕には詳しいことは分からない。


それはとにかく。

魔王を倒した後、たんまりと国王から報奨金を貰った僕らは、こうして城下町で悠々自適に暮らしているというわけだ。



***



「はぁ……なのに、なんでこんなにモテないんだろう?」


僕はゴブリンを切り飛ばしながら愚痴った。


「これでも僕、勇者だよ?勇者って普通、女の子が群がってくるような称号じゃないの?」


「お前は童貞だからな。そういうもんだ」


僕が愚痴っていると、隣にいたユースケが無慈悲な言葉をかけてくる。


「ユースケだって童貞だろ」


確かに僕は童貞だけど、同じ穴のムジナであるユースケにだけは言われたくない。

僕と同じで彼女すら出来たことのないユースケに言われると無性に腹が立つ。すると今度は反対の隣からヒロユキが小声でささやく。


「……童貞勇者」


「ヒロユキッ!童貞勇者って呼ぶな!」


火魔法を放ちながらぼそっと言うヒロユキに、僕は大声でツッコむ。

ヒロユキめ。変なあだ名をつけやがって。

僕は知ってるんだぞ。お前この前のパーティで貴族のお嬢さんの胸元ばっか凝視してただろ。確かに彼女たちが着ていたドレスは胸元の開いたセクシーなものが多かったけど、あんなに無遠慮に見ているのはヒロユキだけだったからな。このムッツリ賢者。


「っと……よし。これでこの辺のゴブリンの駆除はおしまいだな」


鮮やかな剣筋で最後の一匹を斬り倒したユースケが、疲れたように肩を回しながら言う。


魔王を倒してから数週間。

僕らは冒険者になって時折こうして日銭を稼いでは、報奨金を切り崩しながらだらだらと過ごす毎日を送っている。

魔王亡き今、勇者にしか倒せない存在はいない。僕らのお役はもう御免な、平和な世界なのだ。


「でもやっぱり久しぶりに戦ってみると、大分体がなまってるね」


「まぁ、俺もお前も剣士よりだしな。ヒロユキは魔法で戦うからその辺関係ないんじゃねぇの?」


「……俺も腕がなまっている。詠唱がいつもより少し遅い」


こうして実戦で戦うのは久しぶりだ。

ユースケやヒロユキと喧嘩して剣を振り回すことはしょっちゅうだが、やっぱりこうして実戦で戦わないと分からない感覚がある。

魔王を倒したとは言っても、その残党が残っている可能性は大いにある。

いくらお金が有り余っているとはいえ腕を鈍らせるわけにはいかないのだ。


「っし。んじゃあ帰ろうぜ。腹減って仕方がねぇ」


「そうだね。夕飯は今日もいつものとこにする?」


「ああ。ミーナちゃんの酒場だな」


「……俺もそれで構わない」


ヒロユキも異論はない様だ。

それも無理はない。

ミーナちゃんが看板娘をしているあの酒場は、料理が絶品なのだ。

それに何より、看板娘のミーナちゃんがとびきり可愛い。

僕ら3人はミーナちゃん目当てであの酒場に通っていると言っても過言ではない。


……残念ながらミーナちゃんには彼氏がいるみたいだけど。


まあ、現実なんてそんなものだ。

可愛い子には彼氏がいる。

この世の真理だ。それは異世界でも変わらない。


そうして僕たちはその場を後にする。

背後には、僕たちが狩った200体あまりのゴブリンの死体を残して。


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