第1話:記念すべき日の直前
4月9日、外は晴れて暖かい。
「うわぁ、雪ぐっちゃぐちゃやん……」
永田廉斗は玄関のドアを開け、一つ呟く。
家の前に溶け残っている雪は、昨日の雨のせいでぐちゃぐちゃになっている。
「まぁいいや。 さっさと行きますか」
廉斗は玄関の鍵をかけて歩き出す。
「制服も学ランからブレザーになって、何か新鮮や!」
歩きながら右腕を伸ばす。
ブレザーの袖は長く、廉斗の手がほぼ隠れている状態だった。
「これは……しゃあないわ」
思わず立ち止まるものの、苦笑いして右腕を下ろしまた歩き始める。
「廉斗ーっ!」
「おっ、紫苑!」
ついこの間まで通っていた西の森中学校の横通りを歩いていたら、幼なじみの平井紫苑が後ろから走って来た。
「おっはよう!今回こそは廉斗と一緒のクラスでありますように!」
「それな」
2人は笑いながら歩き続ける。
西の森中学校の校舎からは吹奏楽部の後輩達が一生懸命練習している音が聞こえる。
「あ、電車来る!」
「マジ!? 早よ行こ!」
2人は市営電車の停留所に駆け込み、ギリギリの所で電車に乗った。
目的地付近の停留所までは4つの停留所を通る。
「着いたーっ!」
目的地付近の停留所である市役所跡地停留所には、廉斗達と同じ制服を着てる人々が多く見られる。
「いよいよやなー」
「せやな、行こか」
「うん!」
2人は人の流れに乗り、信号を渡りそのまま100メートルほど直進した先に市立光明高校があった。
そう、今日から2人はこの市立光明高校に第1期生として入学するのだ。
『せーのっ!』
2人は一緒に校門を通ると、両側と奥に校舎がある。
更に道なりに歩くと、生徒玄関にたどり着く。
横には、掲示板がありクラス表が5枚張り出されていた。
どうやら今年は5クラスのようだ。
「一緒のクラスでありますように!」
「ちょ、おい待てよ!」
自然と別れて自分のクラスを探し始める。
数分後……
「いやいやいや、マジかよーっ……」
「早よ入ろうや、寒い!」
生徒玄関前で紫苑は酷くうなだれ、廉斗はそれを見て困っている。
それもそのはずで、クラスは廉斗は1年A組に、紫苑は1年D組になったのだ。
しかも、これまで小中学校9年間2人は1度もクラスが一緒になった事が無いのでこれで10年目に突入したのだ。
「おはよう」
「おぉ! おはよう!」
後ろを振り向くと、金田柊平と大宮流馬、撫養康太と西山大輝がやって来た。
彼らも2人と同じく、西の森中学校出身だ。
「おっす……」
「紫苑君、どうしたん?」
「あれか、10年目の……」
「それ以上言うな……」
流馬が紫苑に聞くと、横から康太が入って言うも、すかさず紫苑が康太に釘指す。
「せや、クラスクラス……」
「あっ、柊平君待って!」
「ほなな」
「2人ともまたね! こーちゃん待ってー!」
4人は自分のクラスを確認するために掲示板に行った。
「紫苑、早よ入ろう」
「おう……」
2人は校舎の中に入って行った。