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ディレクター不在の人形劇

 ごしゃり、と、生々しい音を聞いて目が覚めた。








「………………?」



 ……はて、何が起こったのだろうか。

 いまいち、いや全く前後の記憶の整合性が取れていない。


 気持ち良く寝ていたところに突然窓から自称山田さんが飛び込んできたような、追加で佐藤さんが天井から降りてきたような、そんな状況に頭が追いついていない感じがしている。


 確か、恐らく、いやきっと、死んだと思ったのだけど。

 こう、3tトラックにミンチにされる感じで。いや電車だったろうか? もしかして戦車……はないか。


 兎に角、僕だったか俺だったかは思い出せないが、死んだはずなのだが。


 うん、はずなのだが。




 ――それが何故、こんな如何にも”ダンジョン”な所にいるか。さっぱりすっぱり分からない。

 いや何処だここ。



 遺跡、のような気がする。専門家ではないから知らん。

 埃と砂が積った石造りの廊下に、同じ材質の壁と天井。光源は壁に等間隔で設置された何か。


 昔懐かしのイン〇ィが冒険してたのが、こんな雰囲気だったか。

 ……が、画面越しに見るそれは、こんなに広くはなかったと思うのは気のせいじゃあないだろう。なにせ天井は自身の4倍ぐらいの高さがあり、造りは正方形なので横もデカイ。

 こんな広さの通路なんて、向こうからやってくるゴーレムっぽいのしか恩恵がないだろ………………う?


 たぶん、傍から見れば間抜な顔をしていただろう。

 いやぁ……でもさ、これは仕方がないと思うよ?

 意外と音が静かだったから気が付かなかったが、それはのっしのっしと歩いてくるのだ。二度見どころか三度見して、ようやく人型と認識したぐらいに――でかい。

 むやみやたらにでかい。

 岩でできた体でゆっくりと、謎の静音仕様で前進してくる。


 このままだと踏みつぶされるか蹴飛ばされそうだったので端に寄ると、ゴーレムも反対側に寄って(ただし図体が図体なので気持ち程度だが)通り過ぎて行った。

 ……いや、なんかすれ違い際に会釈とかされたんだけど。思わず頭を下げてしまったが、実は紳士なのかアレ。


 呆気にとられてゴーレムが去った先を見ていると、後ろ――先ほどゴーレムが来た方から金属がぶつかる音が聞こえてきた。




 ……なんだ、今度は鎧か。



 いやいやいやいや。

 待て待て待ちなさいなそこ行くお方。


 鎧だけ(・・)が歩いてるってどんなんだよ。結構鎧がボロボロだから、空いた隙間から向こう側が見えてるよ。某錬金術師の弟さんですか貴様。

 さっきのゴーレムも大概だけど、これよりマシだ。物理法則どこ行った畜生。


 ……ん?

 鎧の陰に隠れてたけど、まだなんかいるな。




 …………ほほう、宙に浮く剣か。






 (次元的な意味で)ここは何処だ!?



 しばらくその場で突っ立っていたが、その後も出るわ出るわ。メタリックなスライムやゴミで出来た犬、浮いた呪いの仮面に釘バットなどなど。


 やだーどう見ても考えても日本じゃない地球でもない同じ世界ですらないじゃないですかー。

 なんというテンプレな異世界転生。



 そして今、ある事に気が付いた。気付いてしまった。

 異世界転生と言えばチートとか内政とか乙女ゲーとか色々あるが、この状況に近いと思われるものが一つある。



 ……さて。


 …………この身体が人間か魔物か(・・・・・・)。それが、問題だ。



 一応、ヒントはある。

 さっきから通り過ぎていった魔物は、全てこちらに対しては基本無反応だ。唯一あったのは最初のゴーレムぐらい。やはり奴は紳士だったか。

 まあとりあえず、襲われることは一度も無かったのだ。



 うん、人間である可能性は非常に低そうだ……。


 では何の魔物か。

 それもさっきの魔物集団にヒントがあった。


 今まで見かけた魔物――それは全部無機物だったのだ。

 メタルなスライムが無機物でいいのかは知らぬ。



 うん、生物ですらない可能性が非常に高そうだ……。


 見上げたり壁に寄ったりしていた事を振り返ると人型であるとは信じたい。


「………………………」


 ゆっくりと、ゆっくりと自分の身体を見下ろす。

 そこに見えたのは――――






 ……ないわー。

 …………これはないわー。

 

 鎧とか岩とか覚悟はしていたけど。

 いくらなんでも"ゴスロリ服"はないわー。


 解せぬっ……!



 ……はっ、ゴスロリ服を着て無機物ということは!?


 慌てて見た両手。

 それは見た目、人の、人間の手だ。

 しかし、鮮やかな白(・・・・)の色をした手に、人特有の暖かさは、ない。


 指を動かし、可動させる。

 柔らかそうな小さな指と掌には、血が通っているようには見えない。


 まさかの、まさかのゴスロリ人形、だと……!


 え、ちょっと待て。

 人形だけど、人形だけどさ。


 性別は……どっちだ?





「……………かみは死んだ」


 アレが……ない。

 確か前は男だったはずなのだ。記憶の大部分は思い出せないが、しかし男だったはずなのだ。

 この、人形になったという事よりも大きい衝撃がそれを物語っている。


 ちなみに、目が覚めて初めて喋った内容がさっきのあれである。普通に幼女チックな可愛らしい声なんだが、はははこの世界の人形は声も出るんだなー(逃避)。


 しかし、確かにショックではあるが、実はまだ問題があるのでここで挫ける訳にいはいかない。

 最後の問題、それは顔だ。単に美醜の問題ではない。いや、確かに美醜の話ではあるのだろうが、少し違う。


 ほら、一つ想像してほしい。

 ゲームとかでよくある人形の魔物。それが一体どんな容姿だったのかと。


 ……だいたいはホラー担当である。

 ほら、アクション系でもいるだろう。西洋人形で、顔や身体の一部が欠けているケタケタ笑いながら襲いかかってくる奴だ。

 うわあマジか。それなら鎧とかの方がカッコイイのでマシだったぞ。


 鏡とか見て一応自分の姿を確かめておいた方がいいのか、とかつらつら考えていたのが悪かったのか。

 よく考えていれば分かった話ではあるのだが、後の祭りとは正にこの事。先ほどここを通り過ぎて一様に同じ方向へ向かって行った彼ら、魔物達の進む先に何があるのか――正確にいえば何がいるのか、とか。

 要はさっさと移動しとけばよかった、という話なのである。



「…………? 音が」


 廊下の向こう、魔物達が去って行った先で連続した音が響いてきていた。金属のぶつかる音や、何かを燃やす音、叫び声のようなものも聞こえる。

 それが何であるか暫し思考し、答えは簡単に閃いた。


「そーか、まものがいれば当然ぼーけんしゃとかいるよね」


 舌足らずな口調で呟くと同時、側の壁が爆発した。ボカンと。









「………………はぃ?」


 呆然とするのは本日何度目だろうか。いやホントに。もくもくと煙を上げ、大穴を開けた壁を凝視する。

 そんな穴の中から聞こえてきたのは、複数の人の声。

 正直こんな理解不能な状況で、誰かに助けを請いたかったと言うのもあるし、人恋しかったのもある。故に、反応が遅れた。


「「「あ」」」


 つまり、ばっちり目が合ってしまった。

 そこに居たのはドが付くぐらい王道な連中。パーティ構成は剣士男に魔法使い女、僧侶女と盗賊女。最後にタンカーらしい禿頭の大男が一人。おお、なんというテンプレなパーティ……って今はそうではなく。


 お互い硬直していたが、ある事に気が付きはっとする。


 彼ら=冒険者。狩る側。

 自分=魔物。狩られる側。


 ……いかん、何時の間にか命の危機だ!

 と、言う訳で戦略的撤退――としたかったのだ、が。


「――びにゃ⁉︎」


 がごんっ! と派手な音と共に、頭を床に打ち付けた。

 痛い、そこはかとなく額と心が激しく痛い!

 え、何が起こったって? ああそうだよ足ひっかけて、思い切りすっ転んだよチクショー! つーかこんな身体でも痛覚あるのにもビックリだよ!


 この間にも殺られるかと戦々恐々としていたが、意外とそうでもなく。むむむ、やはり残念な事に相手に恐怖を与える容姿なんだろうか。


 何はともあれ、痛みやら羞恥やらで身体が震えていたが何とか抑えて立ち上がると、一目散に逃げるのであった。


 うう……これからどうするかなぁ。










******


 ――一体の人形が去ったその場にて。


「…………ねえ」

「…………なんだ」


「何、今の」

「子供……じゃあないよな」

「こんなダンジョン深層には一人でいないと思うよー」

「じゃあ何よ?」

「多分……キリングドールではないでしょうか」

「え、ウソ。キリングドールってもっと色々と気持ち悪い奴じゃなかったっけ? あのケタケタ笑って襲ってくる」

「ふむ、それにしては……」

「人特有の生命力がありませんでしたので、確かだとは思うのですけど……」

「珍しく歯切れ悪いな」

「ええ、それはねえ」

「アレは仕方がないかなー」

「そうですね、何しろ――」


「「「無茶苦茶可愛かったし!」」」


「おいそこかお前ら」

「は? アンタ何言ってんの非常に重要でしょうが!」

「そうだねー、ここの攻略より重要だねー」

「ええそうです、可愛いは正義です」

「お前ら……」

「分かってないですねー、この唐変木」

「そうね、でもいつも通りでしょう」

「あれ、なんで俺ディスられてんの?」

「大丈夫です、あなたがどれだけ空気読めなくて女心が解らなくても、きっといい人は見つかります。――男の」

「やめろおぉぉぉ! 俺にそっちの趣味はねえ!」

「諦めるといいよー、もう街では広まってるし。頑張ったボク」

「原因お前かよ駄猫!」

「やだなあ泥棒猫って言ってよ」

「止めなさいよ。下僕の変な噂がアタシにまで波及するじゃない」

「もうやだコイツ等……!」

「あらあら、なぜニュアンス的に私まで含まれているのですか? 捩じり切りますよ?」

「何を!? つぅかアンタが一番大概だよ聖職者!」


「……盛り上がっている所をすまんが、結局どうするのだ? もう方針は決定している気がしなくもないので、準備は出来ているが」

「え、方針て何? 準備?」

「さすが、できる男は違うわね」

「うんうん、いい感じー」

「ええ、頼りになります。――誰かさんと違って」

「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「うるさい黙れ」

「…………はい」


「……ほれ、非殺傷トラップ一式と強化ロープだ」

「え、これってまさか……」

「何か疑問でもある?」

「……相手魔物だよな?」

「ええ、白い肌が陶磁器の様で、朱く大きな目は宝石の様で、魔物らしい黒い髪は高級な織物の様な、魔物ね。人形だから本当にそうかもしれないけど」

「ついで、貴族が着るような仕立ての良いドレスとか、凝った装飾の靴とかアクセサリとか付けてる魔物だねー」

「あとこちらを見て襲い掛かってくるどころか怯えて逃げ出した挙句、何もないところですっ転ぶ魔物さんですね」

「……売るのか?」

「埋めますよ? そんなことはしません。私たちはあのような可愛らしい子供が大好ぶt――いえ、子供好きという事です」

「今ヤバい単語が出かけなかったか!? というか、ならどうするんだ?」

「モンスターテイマーって職業をご存知?」

「ああ、お前の同類が多そうな――ぐぼぁ!」

「なんでわざわざ声に出すかなー?」

「馬鹿だからじゃないですか?」

(……哀れな)


「さて、準備も整ったことだし。捕捉は?」

「ええ、問題ありません。追跡魔法はまだまだ有効です」

「こっちもOKだよー。罠は粗方仕掛け終わったし」

(俺たちはここの最下層を目指していた筈なんだが……)

(止めておけ。ああなった女は逆らわないのが一番だ)

「何か文句でも?」

「「いや、ない。何もない」」


「そう。それなら――」


「「「捕獲開始!」」」




******



 その後、とあるダンジョンの深部にて童女の悲鳴と三人の女の高笑いが聞こえてきたという噂が広まったが、真実は定かではない。ついでに男色剣士とか人攫いとかの噂も広まったが、物理的に消え去っていった。いいのかそれで。


 そしてその後、とあるパーティには可愛らしい動く人形が加わることになる。

 その人形は魔物でありながら博識で人間に友好的であり、加えて最高級の素材で作られた幼い外見から何度も誘拐されそうになるが、その度に三人の女魔王が降臨したとかなんとか。だからいいのかそれで。


 しかしその人形を巡る一連の事件は最終的に世界の危機にまで発展する羽目になるのだが――


 今はまだ誰も知らない神話である。



■簡単な登場人物紹介


▼主人公:魔物(キリングドール?)

 気が付けば何の説明もなく魔物に転生していた元男。

 通常は恐ろしい外見をした人形の魔物のはずが、何故か非常に可愛らしい外見になっていた。

 ハイスペックな外見+高級そうな品々を身に着けているが、実は装飾含めて本人の一部なので傷ついても再生する。

 動力源は心臓部に設置された神話級の代物という地味設定。


 記憶が曖昧だがぽっと現代知識が出てくることがあり、外見と合わせてよく攫われそうになる。

 本人に戦闘力はないが、周りの保護者が強すぎるので大体なんとかなっている。


 行く先々で可愛がられ、かつ自身も舌足らずな話し方しか出来ないので、だんだん精神年齢が下がって行くのが最近の悩み。

 苦労人その1



▼剣士

 パーティのリーダーという名のクレーム対応係。むしろパシリ。

 弱くはなく、むしろ世界最強クラスのはずなのだが、女衆が濃すぎるので目立たない可愛そうな人。

 よく空気読めないとか言われているが、単に特定の三名が特殊すぎるだけ。

 一応イケメンではある。ほとんど目立たないが。

 ある日(強制的に)パーティに加わった主人公に同情を感じて何かと世話を焼く。それが元でロリコン疑惑が湧いたりするのはもはや確定事項か。

 苦労人その2



▼魔法使い

 ドS。可愛いと美人の中間。

 実は某国の王女で、性格がアレすぎてちょっと世間を見てきなさいと放り出されたアレな人。

 改善の余地どころか火力含めて悪化しているので、放逐した父親(国王)はいつ帰ってくるのかと戦々恐々としている。

 が、本人は堅苦しい実家(王城)より冒険者の方が性に合っているので戻る気はなし。せめて一報は入れてやれ。

 魔法の腕は火力一辺倒で、それだけなら最強クラス。被害がデカ過ぎて称えられることがないが。


 ある日ダンジョンで見つけた主人公を一目で気に入り、捕獲して使い魔に仕立て上げた。

 最初はお気に入りの玩具程度の認識だったが、だんだん妹的な扱いになってきているツンデレさん。


 剣士の事は下僕扱いしているが実は……という展開はむしろ剣士が逃げ出すので、どうなるかは神のみぞが知る。



▼盗賊

 猫耳ボクっ子。獣人で盗賊というよくある設定の人。可愛い系。

 何かと目についた物や、他人の物を欲しがるという傍迷惑な性格をしている。他人の大切な物とか、彼氏とか夫とか婚約者とか。

 でも自分の物になったらどうでもよくなるという軽く外道なビッチちゃん。自称泥棒猫。

 獣人の身体能力と本人の才能で、接近戦は無駄に強い。神よ、何故こいつに戦闘能力を渡した。


 しかし主人公は手に入れても飽きなかったので不思議に思って接していたが、主人公に逆に懐いていく。

 あれ、いつのまにか変なペットが。



▼神官

 僧侶ではなく神官。それも上位の。いいのかそれで。

 腹黒と言うと腹黒い人が善人に見えてしまうほど、真っ黒い人。でも困っている人は基本助ける。困っている姿を楽しみはするけど。

 清楚系美人なので、大体の人は騙される。使えるものは神でも使えとは本人の弁。オイコラ聖職者。

 神術は当然最強クラスで、物理もイケる。拳が。


 魔法使いと同じく玩具感覚で捕まえた主人公だったが、気が付いたら自分が捕まっていた(乙女思考)。

 ヤンデレなのは間違いない。



▼騎士

 禿頭の人。実は近衛騎士という謎設定。

 実はこのパーティで一番強かったりするが、剣士のイケメンより目立たない。

 よく気が利く、空気が読めると女性陣からは好評。世渡りは上手い。このパーティにいる時点で失敗している気がしなくもないが。

 魔法使いの父親(国王)からお目付け役にと一緒について行っている。


 更に実はパーティ全員同い年なのだが、この人だけ+20ぐらいの年齢で見られる。

 神官も同様に年上に見られることがあるのだが……口は禍の元とはよく言ったものである(遠い目)。

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― 新着の感想 ―
[良い点] TS転生で人形と言うのは初めてなので楽しく読見ました [気になる点] 短編なのに続きが気になるところ [一言] 連載してほしいです!!
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