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人間レベル  作者: なるせるり
第一章
4/6

感想など頂けると嬉しく思います。

 本屋を出た僕は真っ直ぐ家に向かって歩いていた。

 他に用もないし買い出しなども今日は頼まれていない。

 それに気がついたら時計の針が既に六時を回っていた。

 単純に計算しても三時間以上本屋にいたことになる。

 たいして僕にとっては驚くことではないのだが、今日は家政婦さんに何の連絡も入れていないのでもしかしたら心配しているかもしれない。

 そう思うと自然に歩くスピードが速くなっていた。


 僕の家は駅から15分程歩いた住宅街にある一軒家。

 ちなみにさっきの本屋からは10分程に位置している。

 この住宅街は防犯もしっかりしていて付近の犯罪件数も少なく周りの人も同レベルの人が集まっているせいか、この区画は空気みたいなものが統一されているように感じる。

 僕にとってここはとても住みやすくとても気に入っている。

 そしてここに住むことのできることを両親に感謝している。

 物心つくまでは僕自身あまり感じたことはなかったが、やはりレベル別で住める場所も限られてくる。

 金額的な事も一つの理由だが、『この区画は何レベル以上』というような区画分けがされていてレベルが足りない人はお金があってもそこには住めない仕組みだ。

 そうなると結果的に最先端の設備が整っている地域には高位の人が住み、未発達な地域には低位の人が住むことになる。

 町に投資されるお金にもかなりの差が生じるので、ある程度続けば自ずと下位の人が住む町は防犯も甘くなり、その結果治安も悪くなるという悪循環に陥っている。

 国も政府も何もしない。

 『人間レベル』がこの世界では絶対だから。

 これが現実であり、『歴史上最大の格差社会』とまで言われている今の現状なのだ。


 自分の今いる立ち位置からすれば、積極的に変えていこうとは正直思わない。

 変えるためには多大なリスクを冒さなければならないだろうから。

 多分高位の人は皆似たような気持ちだろうと思う。

 もし現状が180度変わり平等の世界が訪れたら今よりも下の暮らしになるのではないか?

 それならいっそ下位の人には悪いが今のままでいい。

 そもそも下位の人に申し訳ないなどと思う人はいないかもしれない。

『自分さえよければ』

 そう思っている高位の人は少なくないだろう。


 この現実に直面するたび無力な自分は固く目を瞑り、顔を背け、耳を塞ぐ。

 現実はあまりに残酷すぎて僕には辛い、苦しすぎる。

 それに僕自身今の生活に満足しているし、この環境を壊したくない。

 だけど下位の人の現実を知れば知る程この世の中が全て正しいとは思わない僕がいるのも事実。

 見た目も違えば性格も違うし、生まれた境遇だって同じ人など皆無だろう。

 それでも未来への希望は誰しもが平等に与えられるべきだと思っている。

 でも今の世界はそれが限りなく小さく感じる。

 両親が下位でも最初は昇る為に一生懸命努力するかもしれない。

 だけど這い上がる道は茨道だと思うし、もしかしたらそこには道すらないかもしれない。

 上の人は恵まれた環境で学び、対して低い人は満足な教育すら受けられるかどうか。

 その世の中を変えたいと心の隅では思っているけど、現実的に自ら一歩を踏み出すのは難しいし今の僕にはその勇気は無い。


『誰かが変えてくれないものか』


 こんな他力本願な願いを持つ自分が嫌いだ。

 変えようとする意思が無いなら中途半端に思っていることさえ罪に思う。

 誰かがこんなことを言っていた。


『力無き正義は悪と変わらない。そして偽善にさえ劣る』

 

 今の僕にぴったりな言葉だ。

 僕にも力があればと常々思う。

 だが願っているだけでは力は手に入らない。

 どうすればいいのだろう…。

 

 気づけば家が見えていた。

 ここまで来る間に随分テンションが下がってしまった。

 今日はやることやったら早く寝よう、とそう思った。

 僕は玄関の鍵を開けドアを開き一言声をかける。

「ただいま」

 僕の声が薄暗い家の中に響き渡る。

「あれ?」

 誰の返事も無い。

 電気も点いていないし物音一つしない。

 実に静かだ。

「出掛けてるのかな?」

 この時間に家政婦さんがいないのは珍しい。

 いつもは晩御飯の支度をしている時間のはずだ。

 家に入り中を確認する。

 リビング、キッチン、彼女の部屋。

 彼女は住み込みなので個人の部屋がある。

 やはりどこにもいない。

 いつもと違うせいか胸が少しざわめいたので、確認のため携帯に電話をかけた。

 呼び出し音が耳に響く。

 だけど彼女が出る気配が一向にしない。

 これはおかしい。

 彼女がこの時間に何の伝言も無く出掛けるだけでもおかしいのに、電話にも出ないなんて。

 僕の心の中で不安な気持ちが少しずつ大きくなっていく。

 確かに彼女は僕より大人だし、しっかりした人だ。

 周りからすればこんなことぐらいで心配し過ぎだと言われると思う。

 だけど僕が幼い頃から共にこの家で一緒に生活をしていたってこんなことは無かった。

 出掛けるなら必ず書置きがあるか一言言ってから行くし、携帯に出なかった事だって一度も無い。

 いつも申し訳なくなるぐらい僕の事を優先してくれていた彼女に限って両方ないなんて…。

 動悸が早くなるのがわかる。

 大げさかもしれないがもう少し待って帰ってこなかったら一応警察に電話しておこう。

 事前策を打っておいて損はないはずだ。

 そう思った矢先に玄関の方から鍵の開く音がした。

 帰ってきたみたいだ。

 僕は早足に玄関に向かう。

 しかし玄関で見た光景は僕の予想したものとは違った。

 そこには知らない男が立っていたのだ。

「どうも私『便利屋』と申します」

 男は被っていた帽子を右手で取り、僕に向かって会釈する。

 何が何だかわからないといった様子の僕を見て男は言った。

「突然で申し訳ないのですが一緒に来てもらえますでしょうか?」

 理解しがたいこの状況に僕はただただ混乱していた。

次話を楽しみだと思っていただけたなら嬉しいです。

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