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今回は前回より少し長めになりました。
この調子で書いていきたいです。
僕のクラスは2-A。
校舎の二階、一番南側にあるクラスだ。
このクラスには27名が在籍していて、男子12名女子15名となっている。
「おはよう」
教室に入るとみんなが挨拶をしてくれる。
「おはよう」
それに対し僕も挨拶を返す。
日々変わらない当たり前の日常だ。
僕の席は窓側の一番後ろ。
自分にとっての特等席であり季節を直に感じることのできるこの席が僕は一番好きだ。
そしてこの理由とは別にこの席を好む理由がもう一つある。
それは『壁を創りやすい』ということ。
別にクラスメイトと仲が悪いわけじゃないし、むしろ仲はいい。
だけど壁を創りたい。
理由は明白。
『人があまり好きじゃないから』
気がついた時には既にこう思っていた。
あまり好きじゃないという表現が適切かどうかはわからないが、とにかく人間が苦手だった。
人はすぐ群れたがるけど、僕には理解できないししたくもない。
群れるのは決まって弱いやつらだとさえ思っている。
だから僕はいつも独りでいる。
自分のことは自分で決めるし、人に答えを委ねるような事は絶対にしない。
この信念だけは生涯曲げることはしないと固く誓っている。
予鈴が鳴り先生が教室へ入って来た。
「えーみんなおはよう。今日は特に連絡することも無いのでHRはこれで終わりにする。しっかりと授業を受けるように、以上」
先生はそう言うと教卓で自分の作業を始めだした。
自分が授業をするクラスにいってもまだHRしてるだろうから時間を潰しているのだろう。
周りも各々やりたいことを始めだした。
僕も自分のしたいことをしよう。
午前中の授業も滞りなく終わり、やっと昼休みになった。
僕は朝受け取ったお弁当を持ってあるところへ向かう。
それは今は使われていないある空き教室。
ここで一人昼食を摂るのが僕の日課になっている。
「やっぱ独りが落ち着くな」
つい本音が口から漏れる。
教室では愛想のいいもう一人の自分を演じているようで肩が凝る。
本当の僕の姿を知っているのは家族と家政婦さんだけ。
この人たちの前だけが、本当の自分をさらけだせリラックスできる唯一の時である。
今日のお弁当は好物のから揚げだった。
彼女のから揚げは冷めても美味しい。
他にも野菜や魚などバランスの取れたおかずが並んでいる。
僕は毎度の事ながら、彼女に感謝の思いを抱きつつ昼食を摂った。
「そろそろ時間か」
気づくと昼休みは残り5分になっていた。
憩いの時間はあっという間に過ぎてしまう。
時間の経過とは実に不思議なメカニズムだ。
僕は重い腰を上げ陰鬱な気持ちを全身に纏わせながらも教室に向かって歩き出した。
「キーンコーンカーンコーン」
教室に入ったところで丁度チャイムが鳴った。
僕は席について午後の授業の準備を始める。
鞄から必要な教科書を取り出そうとしたその時、教室のドアが開いた。
入ってきたのは次の授業とは関係のない担任の先生。
「午後の授業は担当の先生が体調不良でお休みなのでなくなった。特に用が無いなら帰ってもらってもかまわない。その場合は気をつけて帰るように」
そうアナウンスして先生は出て行った。
それを聞いたクラスメイトたちがガヤガヤと騒ぎ始める。
これからどうするだとか、どっか行こうだとか。
僕には関係の無いことなので、帰り支度をとっとと済ませ足早に教室を後にした。
昇降口を出るとドームの屋根が閉まっていることに気がついた。
とうとう雨が降ってきたみたいだ。
屋根は透明なので雨の様子がよく見える。
『たまには屋根、開けっ放しでもいいのにな』
恵まれ過ぎた環境のせいか、たまにこんなことを思ってしまう。
下位の人の前で言ったら嫌な顔をされるだろう。
でも、こんな環境に身を置いているからこそ解らなくなることがある。
『自分の現状』が。
帰りの電車は空いていた。
それはそうだろう、まだ2時過ぎなのだから。
帰宅時間には早すぎるし、普通の学校はまだ授業をしているはず。
周りを見ても僕以外の人が見当たらない。
この車両には僕一人のようで、何だかどこかのお偉いさんになった様な気分がした。
妙な優越感に浸っていると後ろのドアが開く音がした。
『なんて間の悪いやつだ』
そんな事を心に思った。
僕が独りでいるこの車両に乗らなくてもいいのに。
しかもなぜか僕の後ろの席に座ったみたいだ。
重ね重ね空気の読めないやつ。
つい眉間に皺が寄ってしまう。
『寝よう』
そう思い僕は目を瞑った。
起きたらちょうど一つ前の駅だった。
我ながら僕の体内時計は非常に優秀みたいで寝過ごしたことは今まで一度も無い。
小さな自慢である。
まだ少し眠たい目を擦りつつ僕は降りる準備を始める。
準備といってもしまってあった定期を取り出すだけなのだが。
電車を降りるともう雨は上がっていた。
家までの道のりにも屋根はあるので降っていても別に構わないのだが。
今日は朝から不安定な天気だ。
『たまには寄り道でもするか』
珍しく僕はそんな事を思った。
寄り道といっても行くところは決まっている。
それは馴染みの本屋である。
その本屋は駅からすぐのところにあり建物自体は細長い7階建てのビルで、漫画から専門書など幅広く何でも取り扱っているという印象だ。
在庫がなければ取り寄せたりもできるので、僕はすっかりこの店の常連になっている。
ちなみに店長とも顔見知りだったりする。
僕は幼い頃から本が好きで、家には数え切れないほど沢山の本がある。
いつの間にか具体的な数が分からなくなった。
それぐらいの量なのだ。
最初は両親も僕が本を読むのが嬉しかったみたいで率先して買い与えてくれたが、増え過ぎた本を見て一度だけ処分しようとしたことがある。
だけど僕にとっては全ての本が平等に大事だったので泣いて抗議した。
そのおかげもあって一冊の本も捨てられる事なく今も増え続けているということだ。
ただ昔に比べて買うのを少し自重するようにはなった。
それは置くスペースがなくなってきたから。
だけど僕は今気になっている本がある。
今その本を探している最中だ。
ちなみに買うつもり。
入荷したという連絡をもらったのでこの店に寄らなくてはと思っていたのだが、ここ数日ゲームに気を取られていたせいで寄ることができなかった。
その本のタイトルは『本を渡る』。
内容は本の中に入ることのできる能力を持つ人間が、全ての本のラストをハッピーエンドにするために一生懸命本の中で孤軍奮闘する物語。
だけどラストはおかしくなった現実の世界に独り取り残されてしまう。
世の中みんながニコニコしていて、争いなどなく、皆口をそろえてこう言う。
「幸せだね」って。
だけど数百年、文明は何の進歩もしていない。
なぜなら未来を視るのを止めたから。
周りが皆同じで疑問を抱くということ、比べるということがこの世界には無いから。
そこで主人公はやっと気づく。
『ハッピーエンド以外の大切さ』を、そして『人と違うということの素晴らしさ』を。
そんな本の内容に僕は強く惹かれた。
今のこの現状に甘えたくない、疑問を持つ心を常に持っていたい。
そう日頃思っている僕の心を掴むには、十分すぎる魅力を持つ本であった。
「やっと見つけた」
目当ての本は小説コーナーのある棚の一番端にあった。
店の人に聞けばすぐ見つかるのだが、自分で探すことによって他の本と出合う可能性もある。
そういうのフィーリングみたいなものを大事にしているので、どうしても見つからない時意外は自力で探すようにしている。
僕はその本を手に取った。
表紙は明るめの色なのに対し、裏表紙はかなり暗めの色で統一されている。
イラストが描かれているわけではなく、両方とも何だか渦のようなものが描かれている。
初めて見た時の感想は『吸い込まれる様』だった。
具体的な言葉が見つからないなか、この表現が一番しっくりきた。
それほど独特な空気を纏っていた本なのだ。
軽く目を通した後僕はその本をレジに持って行くのだが、途中店長に話しかけられた。
「今回はまたマニアックな本に気を惹かれたね。うちの店が取り寄せるなんて相当だよ?」
確かにこの店の品揃えは素晴らしいが世の中には数え切れないほどの本が出回っているわけで、この店に無くても別段驚くようなことでもないと思うのだが。
「店長の見る目が衰えたんじゃないですか?この本は相当面白いと思いますよ?」
「いやいや、今の御時世この手の本はあまり流行らないしそもそも売れないんだよ。一昔前なら店頭に積まれていたかもしれないけどね。小説自体の売り上げも減ってきてるからまた小説コーナー縮小だよ。まったく活字を読まない人が増えるなんて嫌な世の中になったもんだ」
「本当にそうですね」
そう返事をし僕はその場を後にしてレジへ向かい本を購入した。
確かに店長さんの言うことは的を得ている。
人々は目の前だけを見過ぎているせいで、夢や希望を持つことを止めた様に感じられる。
「レベルレベル」とそれだけのために生きてる様にさえ思う。
僕はこうはなりたくないと思ってはいるけど、いつかはこうなってしまうのかもしれないとも思う。
『生きるって何だろう?』
それが偽らざる今の僕の気持ちだった。
一人でも多くの人に読んでもらえると嬉しいです。
次も頑張ります。