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疑深き仔

「なんじゃこりゃ……」

 俺は窓から入る日の光りが目の辺りをちらつくせいで目が覚めた。ここが病室でないことに驚いたが、昨晩のことを思い出して落ち着いた……と思いきや、こんどはここが自宅でもないことに驚いていた。

 俺はいつもベッドで寝ているのに対し今は布団で寝ている。何故か八畳の和室に布団を敷いて寝ていた。

 壁や畳の色を見る限りでは、築年数はそんなに経っていないのではないだろうか。

 目が覚めるにつれ状況が気になり初め、見渡すと見慣れない部屋に違和感を持ちながらも寝ぼけた頭は異様な冷静さでいた。

 起きてからどれくらいか分からないが俺の鼻はようやく畳の匂いを感じたようで、ここが何処なのかわからない感覚に拍車を掛け初めた。

 大きい窓に白いレースのカーテン。どうやら外にはベランダもあるようだ。

 なんと家具まである。タンスも見覚えのない物だ。見てくれは値が張りそうな感じで、木目鮮やかな背の低い引き出しのタンスだ。

「起きたか、言われていたのより遅いから心配したよー」

 俺の脇にある鯉の柄の唐紙が張られた襖が静かな音をたてて横に開いた。そこにはおたまを持った人が現れた。でも、母でも妹でもない。

「あんた……誰だ」

「やだなー。(あおい)ちゃんですよー。ここまで面倒みてきたじゃないかー」

「……はっ? …………あぁ、あの頓珍漢の仲間か」

 襖の向こうはフローリングでかなり広い。

「随分酷いなぁ。本人だよ」

 何か……俺は変なことに足を突っ込んでしまったなぁ、と思う……。訳のわからない場所で目が覚めて、起きれば知り合いを装う女がいて。まぁその知り合いもかなり胡散臭い奴なんだが。

 一歩間違ったら誘拐された被害者だな。

「で、その格好何なんだよ」

「お腹すいてるかなーと思って」

「……まぁな。ってかここどこだよ」

 俺はエプロン姿の小さい女子を見つつも部屋を見渡す。

 キッチンはダイニングキッチンで天井も高め。声が大きく響く。

 ふと窓の外に目が行くと窓の外に驚いた。見える景色が普通ではなかった。普通ではなかった、と言うよりか、見慣れないものだったの方がいいかもしれない。街中(まちなか)の会社のビルをも見下している。思わず窓にしがみついてしまった。

「はぁ~、相変わらず冷静だね。病室に行った時と言い今と言い、ちょっと凹むよ」

「ここどこだ……」

「ここは分譲マンションの真ん中の階のお部屋ですよー」

 どうりで高いわけだ……。

「ここは今いつなんだ」

「不思議な聞き方だね。相変わらず面白いよ」

 いいから話せ。

「お望みどうり、卒業式から八ヶ月前だよ。今はちょうどつぶれた春休みの長期代休の真ん中ら辺」

「俺は何でこの家にいるんだ」

「相変わらず質問攻めか……」

 女は小さくため息を漏らすと俺の目を見て口を開けた。目は口ほどにものを言う、とはまさにこの事だ。

「それはー……」

「何かあったのか?」

「あの希望……あったろ。あれでちょいとね」

「ふーん。両親にまで忘れられて、家に存在しないことになったって?」

「まさかこれほどまでに重い願いだとは思ってなかった」

「そうかい」

 何でだろうな。悲しくもないし、焦りも困りもしない。答えは単純、予想していたのだ、こうなりそうだと。

 あの交換条件を聞いたとき諦めはついていた。それでも『今』を変えたかった。

「いいのかい?」

「しょーがないって、それなりの願いなんだろうからさ」

 むしろ清々しい。

「寂しい奴だね」

「喧しい」

 とは言ったものの、今の状況が把握出来ていないのも事実だし落ち着かない所もある。まずは説明してもらうか。


ーーー数分後ーーー


 俺はこの分譲マンションの一室を一回払いで買い、一人暮ししてることになってるそうだ。まぁ実質、こいつと二人らしいのだが……。

 俺のことを覚えている奴は意外にもなかなかの人数がいるらしい。俺を育てた親が忘れるくらいならいねーと思ってた。そう考えるのが正常だと思う。

 てかそうなると、ここに住んでいられるのが不思議だ。身分証明とか責任者とか……しかし突っ込んでもしょうがないから言わないことにしておく。

 ……。

「メールか……」

 ポケットに入っていた携帯を取り出すと着信があった。全く然り気無く(さりげなく)取り出したが、取り出してからポケットに入っていたと認識した。

 一時間くらい前に来ていたようで、遊びの誘いだ。久しぶりだし行きたいが、今更返事をしても大丈夫だろうか。

「そんな時には……」

「何にも言ってないだろ」

「言わなくてもわかるのさ」

「何でだよ……」

 やっぱし胡散臭い。でも苛々はしない。

「だって、ここで試しに『希望した能力』を使ってみないと勝手がわかんないじゃん?」

 ……何かアクションゲームの無理なチュートリアルっぽいな。

「どうやるんだよ」

「これを使うんだ」

「……はぁ?」

 こいつの言う『これ』はそうとう物騒なものだ。歪んだTの字をしていて引き金のついた『これ』は

重そうに黒光りしている。

 俺は拳銃(これ)系には詳しくないから何口径だとか何発撃てるかとかはわからない。ましてやアルファベットや数字で出来た名前なんて知るわけがない。

「これでどうすればいいんだよ。まさか人に向けて願い叶えろとか言わねーだろーな?」

「言わないよ。それは自分の頭に当てて使うんだよ」

 さっきより状況悪化してんな。

「もちろん実弾は出ない。それは自分の思念を体外に撃ち出す装置なんだ」

「……」

「はいはい。どーせ頓珍漢ですよ」

「まだ何にも言ってないだろ」

「ってことは言おうと思ってたんだ」

 ……。

「……で?」

「あ、流した。まぁいいけど。これは引き金を引くと弾の代わりに衝撃が発射される。その衝撃で脳内の願望を体の内側から外側(せかい)に放出することで願いを叶える。そんな原理」

「この上なく分かりやすいが、この上なく怪しいぞ。そいつの使い方はそんなに簡単なもんなのか?」

 アナログと言うか、ローテクと言うか……得体の知れない物体(しかも形が物騒な)の説明が30秒足らずとは……。

「いや、ホント手身近に説明したまでで、本当は色々手ぇかかってるんだよ」

「ふーん」

「気に入らないならいいけど、使わないならあんたは、その存在自体を無駄にしたことになるんだ」

「……」

 よく考えればそんなにも時間は経ってないが、こいつの目の黒さを久しぶりに感じた。ヘラヘラとした態度から急に変わる怖気さえ感じるその目付きは、怒りなのか脅しなのか……わからない。

「……どうすればいい」

「米噛みに銃口当てて、願いたいことに意識を集中して引き金を引く」

「……死んだりしねーだろーな…………」

「疑り深いねー。大丈夫だって。ほらあれだよ……何て言ったっけ? ……あ、騙されたと思って!」

「……」

 騙されたと思った時には遅いんだがなぁ……。

「あぁっ!? 安全装置は外さないで!」

「え? あぁ……」

 思ってた以上に重みはなく、握りやすい。

 俺は自分で持っているこいつをじっと見つめてからそっと持ち上げた。別段何かを考えていた訳ではない。

 米噛みに向け、引き金を引いた。


ーーパンッ!


 部屋には大きな音が響いた。

見てくれてる人ごめんねー!

大分遅れたー(>_<)


懲りずに読んであげてー!

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