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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第8章 強さの先へ

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第58話 現状確認

 その日は、それ以上何もなかった。


 特訓だ、と言われたものの、

 悠人はそれ以上踏み込まず、拠点へ戻るよう促した。


「今日は、もう休もう」

「俺も疲れてるしな」


 あまりにも普通の口調で言われて、

 エリシアは拍子抜けしつつも頷いた。


 胸の奥に灯ったものは、

 その夜、消えることはなかったが。


 ーーーー 


 翌朝。


 拠点の裏手に出たエリシアは、思わず足を止めた。


 庭として使われているはずの空間に、

 淡く光る結界が張られている。


 見覚えのある魔術式。

 だが、規模も密度も、今まで見たものとは違った。


 その中で。


 剣を交えている二人がいた。


 悠人と、セナだ。


 金属音が、短く、乾いた響きを立てる。

 激しく打ち合っているわけではない。


 だが、一合ごとに、

 張り詰めた空気が弾けるのが分かる。


 ――速い。


 エリシアがそう認識した瞬間には、

 すでに攻防は終わっていた。


 悠人が剣を下ろし、セナが一歩引く。


 ちょうど、そのタイミングで、

 悠人の視線がこちらに向いた。


「起きたか」


「おはよう……」


 悠人は、軽く結界を示す。


「まずは現状の確認をしよう」

「エリシアが、今どこまでできるのか」


「だから」


 悠人は、結界の縁へ歩きながら言った。


「俺と模擬戦をしてもらう」


 セナは何も言わず、結界の外へ下がる。


「私が見てるから」

「魔法、全力で使っていいよ」


 結界の内側と外側で、空気が変わる。


 エリシアは、一歩、結界に足を踏み入れた。


 膜を抜ける感触。

 魔力が肌を撫で、閉じ込められる感覚がする。


 逃げ場はない。

 ここからは、観察される側だ。


 エリシアは深く息を吸い、杖を握る。


 剣ではない。

 自分は、魔法使いだ。


「……いきます」


「どうぞ」


 開始の合図は、それだけだった。


 エリシアは即座に魔力を展開する。


 詠唱は短く、洗練されている。

 まず放ったのは、視界と距離感を歪める干渉魔法。


 狙いは時間を稼ぐことではない。

 判断を一瞬だけ鈍らせるため。


 同時に、魔力を一点へ収束させる。


 倒すための魔法。

 防御を前提としない、純粋な破壊術式。


 空気が震え、魔力が唸る。


 ――これで、終わらせる。


 解き放たれた高密度の魔法が、

 一直線に悠人へと迫る。


 だが。


 悠人は、慌てる様子もなく手を上げた。


 瞬間、魔力が展開される。


 正面に、薄い防御膜。


 派手さはない。

 だが、必要な強度だけを正確に満たしている。


 直撃。


 破壊魔法が、防御魔法にぶつかり、

 激しい衝撃音を立てて弾けた。


 結界の内側で、空気が揺れる。


 防がれた。


 エリシアは歯を食いしばる。


「……っ」


 一撃で終わらないなら、畳みかける。


 即座に詠唱を切り替え、

 追撃用の魔法を連続展開する。


 だが。


「止め」


 短い声。


 その瞬間、

 構築途中だった魔法陣が崩れ落ちた。


 魔力の流れが寸断され、

 術式が分解されるように消えていく。


 無理やり打ち消されたわけじゃない。

 最初から組み立て直されたかのように、

 理屈通りに、きれいに解体されていた。


 理解する前に、戦闘は終わっていた。


 時間にして、数秒。


 それだけで、決着だった。


「……今のが、全力?」


 責める響きはない。

 確認だけ。


 エリシアは、悔しさを噛み殺して頷く。


「うん……」


 息が、少し乱れている。


 体力ではない。

 思考のほうが、完全に置いていかれていた。


「悪くない」

「でも、まだ“戦闘”になってない」


 エリシアは、顔を上げる。


「どういう……」


「魔法は撃ててる」

「でも、生き残るには足りない」


 淡々とした声。


「当てることと、勝つことは違う」

「生き残ることは、もっと違う」


 エリシアは、唇を噛んだ。


 分かっている。

 頭では。


 でも、身体が追いついていない。


「今日は、ここまで」


 悠人はそう言ってから、少し間を置く。


「これから、ちゃんと鍛える」

「覚悟があるなら、途中で止めない」


 エリシアは、即答した。


「ある」


 短く、はっきりと。


 セナが、少しだけ笑う。


「じゃあ、地獄の始まりだね」


 エリシアは、杖を握り直した。


 ――まだ、全然足りない。


 でも。


 足りないことが、ようやくはっきりした

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