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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第8章 強さの先へ

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第57話 強くなりたいか

 正直に言えば――

 あの調査に、ついていきたかった。


 エリシアは一人、拠点の端で剣を握りながら、そう思っていた。


 鍔に添えた指先に、力が入る。

 何度も磨いた刃は、鈍く光っている。


 今回の依頼。

 ただの護衛でも、ただの探索でもないことは、最初から分かっていた。


 空気が違っていた。

 準備の段階から、張り詰め方が違った。


 それでも、お願いはした。


 悠人の強さの理由を、近くで見たかった。

 理解したかった。

 自分との差を、感覚ではなく、事実として知りたかった。


 曖昧な尊敬や、諦めで片付けたくなかった。


 ――だから同行を頼んだ。


 結果は、断られた。


 返事は早かった。

 考えた末の拒否ではなく、最初から決まっていたような口調。


 理由は多く語られなかった。

 危険だとか、準備不足だとか、そういう話でもない。


 ただ一言。


「今回は、置いていく」


 それだけだった。


 説明も、補足もない。

 判断だけが、そこにあった。


 その言葉が、今も胸に引っかかっている。


 悔しさがなかったわけじゃない。

 納得できなかったわけでもない。


 むしろ、その逆だ。


 それでも、押し通せなかった。


 悠人の目が、あまりにも迷いのない色をしていたから。


 あの視線は、

 感情ではなく、結果を見ている目だった。


「……まだ、だよね」


 小さく呟く。


 境界の深淵で、少しは強くなったと思っていた。

 魔法も、魔力も。

 以前よりは、確実に手に馴染んでいる。


 詠唱は短くなり、

 魔力の制御も安定した。


 それでも。


 でも、“並ぶ”という感覚には、ほど遠い。


 肩を並べる。

 同じ前線に立つ。


 その距離が、まだ見えない。


 そんなとき。


 拠点の入り口に、人の気配がした。


 足音は二つ。

 重さの違う、けれど揃った歩調。


 悠人と、セナだ。


 エリシアは、反射的に顔を上げる。


 二人とも、歩き方は普段と変わらない。

 足取りも安定している。


 呼吸も乱れていない。


 ――怪我は、ない。


 そう判断した直後、違和感に気づく。


 悠人の装備。


 裂け、焼け、削れた跡。

 装備としての役目を果たしていない部分が、いくつもある。


 防護のための加工が、途中で断ち切られている。

 戦闘の途中で、無理やり削り取られたような痕。


 肌は無事。

 血も見えない。


 それなのに。


 どれほどの戦闘だったのかが、逆に伝わってくる。


 守れたのは、紙一重だったのだと。

 そうでなければ、ここまで壊れない。


 エリシアは、無意識に息を飲んだ。


「お帰りなさい」


 自分の声が、少しだけ遅れて聞こえた。


 視線が合い、悠人が歩み寄ってくる。


「エリシア」


 名前を呼ばれた。


 その声には、いつもの余裕がなかった。

 軽さも、冗談めいた響きもない。


 何かを決めた後の、静かな声。


「――もう一度、確認しておく」


 悠人は、真っ直ぐに言った。


 視線を逸らさない。

 誤魔化さない。


「エリシア、強くなりたいか」


 一切の含みがない声だった。

 試す響きも、突き放す色もない。


 ただの確認。


 だが、それは

 これから先を分ける問いでもあった。


 エリシアは、間を置かずに答える。


「……うん」


 短い返事。

 でも、迷いはない。


「強くなりたい」


 守られるためじゃない。

 後ろに立つためでもない。


 同じ場所に立つために。


 危険を共有できる位置に。


 悠人は、わずかに目を細める。


 それは、評価というより確認だった。


 それから、いつも通りの調子で言った。


「それじゃあ」


 一拍。


「特訓、しようか」


 その言葉に、セナが小さく肩をすくめる。

 どこか、覚悟を察したような仕草だった。


 エリシアの胸の奥で、

 ようやく、何かが動き出した気がした。


 止まっていた歯車が、

 音もなく噛み合い始める。


 エリシアの胸の奥で、

 ようやく、何かが動き出した気がした。


 それは、後戻りできない一歩だった。

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