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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第7章 均衡の外側〜接触〜

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第47話 聞くだけの男

 報告は、短く終わった。


 余計な前置きはない。

 感情も、仮定も、ほとんど挟まれない。


 事実だけ。

 確認できたことだけ。


 セナは、必要なことしか話さなかった。


 悠人は、机に肘をついたまま聞いていた。

 視線は、広げられた書類の上。


 数字。

 簡潔な記録。

 円卓がまとめた、最低限の報告。


 セナの声が止まる。


「……以上よ」


 そう言っても、

 すぐに返事はなかった。


 紙を一枚、めくる音だけがする。


 その間、

 セナは何も言わない。


 催促もしない。

 視線も向けない。


 沈黙は、悠人の思考時間だと知っている。


「円卓は動きそう?」


 先に口を開いたのは、悠人だった。


 声は低く、

 関心が薄いようにも聞こえる。


「今は無理ね」


 セナは即答した。


「分からない、が多すぎる」

「だから、判断を先送りにする」


「だろうね」


 悠人は、興味なさそうに言う。


 ペンを指で転がしながら。


「怖い時ほど、人は正しい理由を並べる」


 責める口調ではない。

 ただの観察だ。


 セナは否定しなかった。


「今回は、その“怖さ”が共有されてる」


「共有されてるなら、余計に動かない」


 悠人はペンを止めない。


「全員が同じものを見てる時ほど、組織は固まる」


 少しの間。


 書類から目を離さないまま、

 悠人が続けた。


「セナは、どう思った」


 結論を求めていない。

 判断でもない。


 聞きたいのは、

 彼女の“肌感覚”だ。


「……変だと思った」


 セナは、少しだけ言葉を選ぶ。


「魔物が消えるのは、珍しくない」

「でも、“何も起きてない”のに消えるのは」


「線が違う?」


 言葉を補ったのは、悠人だった。


「うん」


 短く、頷く。


 そこで、悠人は初めて視線を上げた。


 セナを見る。


「近づきたくない線だ」


 断定ではない。

 警告でもない。


 経験から滲み出た感覚。


「今は、触らない方がいい?」


「今は、ね」


 悠人は椅子にもたれた。


「向こうが、こっちを認識してるか分からない」


「でも、認識されてる可能性はある」


「そうね…」


 短い応酬。


 それ以上は踏み込まない。


 言葉にした瞬間、

 引き返せなくなると分かっている。


「円卓は、いずれ頼ってくる」


 セナが言う。


「追い詰められたら、あなたを呼ぶ」


「その時は行くさ」


 悠人は、間を置かずに答えた。


 迷いはない。


「それまでは、通常通りに」


「了解」


 会話は、そこで一度終わる。


 だが――


 セナは、ほんの少しだけ間を置いてから、

 もう一度口を開いた。


「……無理はしないでね」


 悠人は、わずかに笑った。


「それ、俺に言う?」


「一応」


 言葉は軽い。

 だが、視線は軽くない。


 悠人は、何も約束しなかった。


 世界のためでもない。

 円卓のためでもない。


 彼はただ、

 “触れるべき時”を待っている。


 その時が、

 いつ来るのか。


 何を意味するのか。


 まだ――

 名前すら、ない。

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