表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第7章 均衡の外側〜接触〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/62

46話 報告に戻る者

 円卓の間を出た瞬間、

 空気が、わずかに軽くなった。


 胸を押し潰していた重圧が、消えたわけではない。

 ただ――

 あの場にいる限り、否応なく背負わされる「役割」から、

 一時的に解放されただけだ。


 責任が消えたわけでもない。

 判断が不要になったわけでもない。


 それでも、

 息がしやすくなる程度には、違う。


 セナは、歩みを止めない。


 振り返らない。

 円卓に、未練はない。


 必要な情報は、すでに受け取った。

 判断に必要な材料も、頭の中で整理が終わっている。


 これ以上、あの場に留まる理由はなかった。


(……やっぱり、そうなる)


 内心で、短く息を吐く。


 円卓は迷っていた。

 恐れていないわけではない。


 むしろ、

 “恐れているからこそ”慎重だった。


 だが、まだ全員が理解している。

 今は、決断する段階ではない。


 動けば、世界が揺れる。

 名を呼べば、引き返せなくなる。


 だからこそ――

 彼の名は、出なかった。


 いや。

 正確には、出せなかったのだ。


(悠人なら、どう言うだろう)


 考えるまでもない。


『面倒だな』


 きっと、そう言う。

 報告書を斜めに眺め、

 興味なさそうに視線を流しながら。


 だが。


 聞き流しているように見えて、

 本当にどうでもいい部分しか、切り捨てていない。


 違和感。

 数字の歪み。

 言葉にされなかった前提。


 そういうところだけは、必ず拾う。


 セナは、それを知っている。


 だからこそ、

 言葉を選ばなければならない。


 すべてを伝える必要はない。

 だが、伏せすぎれば、判断を誤らせる。


(“カミの気配”)


 円卓が使った、その言葉。


 そのまま持ち帰るべきか――

 一瞬、考えて。


 否、と判断する。


 悠人にとって重要なのは、名称ではない。

 伝承でも、分類でもない。


 何が起きているか。

 そして、それが自分に関係するかどうか。


 それだけだ。


 建物を出ると、

 外はすでに夕刻に差しかかっていた。


 空は、まだ明るい。

 だが、色は確実に沈み始めている。


 昼と夜の境目。

 どちらにも転び得る、不安定な時間帯。


(均衡、ね)


 円卓が好んで使う言葉。


 だが、悠人はあまり使わない。

 彼にとって世界は、

 最初から均衡してなどいなかった。


 偏っていて、

 歪んでいて、

 理不尽で。


 それが前提だ。


 だからこそ、

 「均衡が崩れる」という表現にも、

 過剰な意味を見出さない。


(……でも)


 今回ばかりは、違う。


 戦闘なしの消失。

 魔力反応の不在。

 そして、「見られていた」という一致した証言。


 偶然にしては、

 要素が揃いすぎている。


 説明がつかない、というだけで、

 危険と判断するには十分だった。


(報告、か)


 歩きながら、

 セナは頭の中で言葉を組み立てる。


 まず、事実。

 次に、円卓の反応。

 最後に――自分の所感。


 感情は混ぜない。

 だが、危険性は削らない。


 それが、彼女に与えられた役目だ。


 ――代理。


 その言葉を、

 侮辱だと感じたことは一度もない。


 悠人が来ない理由も、

 来る時の基準も、

 セナは理解している。


 今回、彼は来なかった。


 それは「無関係」だからではない。


 ただ――

 まだ、自分が出る段階ではないと、

 判断しただけだ。


(でも)


 報告を聞いたあと、

 どう動くかは、分からない。


 セナは、足を止めた。


 視線の先に見える、ブラックツリーの拠点。

 あそこに戻れば、

 彼はいつも通りの顔で待っているだろう。


 何事もなかったかのように。

 それでいて、

 すべてを見透かすような目で。


「……さて」


 小さく、独り言のように呟く。


 これは、円卓への報告ではない。

 世界への警告でもない。


 ただ一人の男に向けた、

 状況報告だ。


 だが――

 その一言が、

 世界を動かすことがあるのを、

 セナは知っている。


 だからこそ。


 彼女は、報告に戻る。


 均衡の外側にいる者のもとへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ