表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第6章 均衡の外側〜序章〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/62

第41話 第3席の修正

 第二席の報告が終わっても、

 円卓の間に安堵は生まれなかった。


 数字は揃っている。

 被害の内訳も、撤退判断も、その後の対応案も。


 どれも合理的で、どれも現実的だ。

 軍として、ギルドとして、非の打ちどころがない。


 ――正しすぎるほどに。


 エリシアは、その違和感をうまく言葉にできずにいた。

 ただ、胸の奥に、わずかな引っかかりだけが残る。


 誰も口を開かない。

 報告を受けたはずの円卓は、次へ進もうともしなかった。


「少し、いいかな」


 沈黙を割ったのは、第三席だった。


 声は低く、抑揚もない。

 強さを誇示する響きはどこにもないのに、

 その一言だけで、空気が静かに張り詰める。


 第三席は、武装していなかった。

 鎧も、剣も、盾もない。


 ただ机に手を置き、

 円卓の一部として、そこに座っているだけ。


 それなのに、

 自然と視線が集まってしまう。


「被害報告について、異論はない。

 判断も妥当だと思う」


 第二席は、何も返さない。

 頷きもしなければ、眉ひとつ動かさない。


 肯定を求めていないことが、はっきりと分かる。


「ただし」


 その一言で、

 空気が、わずかに沈んだ。


「危険度評価が、ひとつ古い」


 言葉は短い。

 だが、その意味は重い。


 第三席は、感情を乗せない。

 誰かを責める調子でもない。


 それが、かえって逃げ場をなくしていた。


「三十層級、精鋭二個中隊で壊滅を避けた。

 それ自体は“想定内”だ」


 机の上の資料に、視線が落ちる。


「問題は、挙動だ」


 その言葉に、

 円卓の数人が、わずかに息を詰めた。


 エリシアも、無意識に肩に力が入る。


「侵入中の地形変化。

 未確認魔物の連携。

 撤退の判断が一拍でも遅れていたら、数字は逆転していた」


 淡々とした声が、事実だけを並べていく。


 そこには、

 もしもの仮定も、強調もない。


 だからこそ、想像してしまう。


 ――逆転した数字を。


 ――戻らなかった部隊を。


「鏡界で似た例がある」


 その単語に、

 円卓の空気が、はっきりと変わった。


 エリシアの喉が、ひくりと鳴る。


 鏡界。

 それは、彼女にとっても、

 “力だけではどうにもならなかった場所”だ。


「模倣体が、侵入者の行動を先読みしたケースだ。

 力ではなく、“対応そのもの”を学習していた」


 第三席は、説明しすぎない。

 知っている者には十分で、

 知らない者には、想像させるだけ。


「今回のダンジョンが同一だとは言わない」


 一拍、間が置かれる。


「だが、“力を足せば解決する”前提は危険だ」


 その言葉は、

 第二席の報告そのものを否定してはいない。


 だが、

 その土台を、静かに削り取っていく。


 第三席の視線が、第二席に向く。


 鋭くもなく、

 挑むようでもない。


 それが、なおさら重かった。


「精鋭を増やせば、犠牲は減るかもしれない。

 だが、想定外への耐性は上がらない」


 第二席が、短く息を吐く。


「……つまり?」


 声は低く、感情はない。


「現時点の評価では足りない、という話だ」


 第三席は、それ以上を語らない。


 結論だけを置き、

 それ以上踏み込まない。


「強さは十分だ。

 だが、この手の異常は、強さだけでは踏み越えられない」


 否定は、ここで終わった。


 誰かを責める言葉も、

 優位に立つための言い回しもない。


 それでも、

 円卓の空気は、確実に変質していた。


 エリシアは、ようやく理解する。


 これは衝突ではない。

 意見のぶつかり合いでもない。


 ――修正だ。


 正しさを壊さずに、

 その先に進むための、冷酷な指摘。


(……この席、怖い)


 思わず、そう感じてしまう。


 声を荒げることもなく、

 力を誇示することもなく、


 ただ事実と可能性だけで、

 場の前提を塗り替えていく。


 円卓は、静かに次の議題へ移ろうとしていた。


 まだ、

 本題に触れるには早い。


 エリシアは、そのことを、

 なぜかはっきりと理解していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ