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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第6章 均衡の外側〜序章〜

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第39話 円卓の空気

 その日の朝は、いつもより穏やかだった。


 宿の窓から差し込む光は柔らかく、

 遠くから聞こえる街のざわめきも、どこかのんびりしている。


 ――少なくとも、扉が叩かれるまでは。


「エリシア。行くわよ」


 扉を開けると、そこにはセナが立っていた。

 いつも通りの無表情。

 だが、その声には迷いがない。


「え、どこへ……?」


 問い返す間もなく、腕を取られる。


「いいから」


 それだけ言って、セナは歩き出した。


 街は、朝の顔をしていた。


 露店が準備を始め、商人たちが声を張り上げる。

 平和で、ありふれた光景。


 エリシアは隣を歩くセナを見上げる。


「……どこに行くの?」


「セントラルの城」


 即答だった。


 思わず足が止まりそうになる。


「城? どうして」


「定例会議よ」


 短い言葉。

 だが、それだけで十分だった。


「……それ、私も行く必要ある?」


「あるわ」


 歩調を緩めることなく、セナは続ける。


「みんなに紹介しておかないと」


 それ以上の説明はなかった。


 エリシアは、胸の奥が少しだけざわつくのを感じながら、

 再び歩き出した。



 セントラルの城は、何度見ても圧倒される。


 かつて一度、ここを訪れたことがある。

 それでも、巨大な城壁と空を切り取る尖塔を前にすると、

 自然と息を呑んでしまう。


 (……やっぱり、すごい)


 中に入ると、さらに実感する。

 広い回廊、磨かれた床、静かに行き交う人々。


 その途中で。


「おや?」


 声をかけられ、振り向く。


 そこにいたのは、白銀の鎧を纏った騎士だった。


「君は……確か」


 少し考える素振りのあと、柔らかく笑う。


「以前、彼とここに来ていたね。あの時の」


「あ……はい。そうです」


 白銀騎士団長。

 名乗らずとも分かる存在感。


「今日は随分と早い時間だ」


「……ええ」


 セナが答える。


「なるほど」


 団長はエリシアに視線を向ける。


「同席かな?」


「はい。ご一緒させていただきます」


「みんなにも紹介しておこうと思って」


 その一言で、話は終わった。


「では、行こうか」


 そう言って、団長は踵を返す。


 エリシアは、背筋を伸ばした。


 ⸻


 扉が開かれる。


 中に足を踏み入れた瞬間、

 空気が変わった。


 広い円形の部屋。

 中央に据えられた円卓。


 豪奢ではない。

 だが、無駄が一切ない。


 円卓の周囲には、六つの席が等間隔に配置されている。


 そして――

 各席の背後には、それぞれ一人、あるいは二人。


 武装を解かない者。

 壁際に静かに立つ者。

 視線だけで周囲を制する者。


 (……護衛)


 誰かに説明されたわけではない。

 だが、そう理解するには十分だった。


 ここにいる全員が、

 守られる立場であり、同時に狙われる存在でもある。


 ――そして。


 円卓の中央、わずかに奥まった位置。

 そこだけが、空いていた。


 誰も座らない玉座。

 だが、誰も無視もしない。


 (……空席なのに)


 不思議と、目が離せなかった。


 他の席に座る者たちは、すでに揃っている。


 鎧を纏った者。

 書類を前に静かに目を伏せる者。

 腕を組み、壁のように動かない者。


 席ごとに、空気が違う。


 同じ部屋にいるはずなのに、

 それぞれが別の場所にいるような感覚。


 誰も雑談をしない。

 護衛ですら、息を潜めている。


 エリシアは、自分がこの場にいていいのか分からなくなった。


 (……場違いだ)


 そう思った瞬間。


 第一席に、セナが座った。


 それは、特別扱いでも誇示でもない。

 ただ、そこが彼女の席であるかのように、自然だった。


 その動きに反応するように、

 わずかに空気が揺れる。


「……やっぱり、今回もあいつは出席しないのか」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


 声は低く、感情も抑えられている。

 だが、軽口ではないことだけは分かる。


 セナは、視線すら動かさない。


「いつも通りよ」


 それだけ言った。


 否定も、補足もない。


 その短い応答で、

 その話題は終わった。


 まるで、

 それ以上触れてはいけないと、

 全員が理解しているかのように。


 再び、静寂。


 だが先ほどとは違う。


 見えない何かが、

 円卓の上に置かれた気がした。


「始めましょう」


 誰かが言ったわけではない。


 だが、その瞬間、

 円卓の空気は完全に切り替わった。


 エリシアは、息を飲む。


 (ここは……)


 騎士団でもない。

 城の会議室でもない。


 もっと、別の場所。


 説明されなくても分かる。


 ここは、

 世界の都合が集まる場所だ。


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