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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第1章 エリシアの旅立ち

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第4話 それは、国が管理するはずのものだった

 出発の為に宿の裏手に回った瞬間、私は足を止めた。


「……え?」


 そこにあったのは、見慣れない乗り物だった。


 金属製の外殻。

 馬車とは明らかに構造が違う。

 前方には結晶を埋め込んだ制御盤、後部には魔力を循環させるための装置。


 ――魔道エンジン車。


 それも、私が知っている簡易型とは違う。


「知ってる顔ね」


 セナが、当然のように言った。


「これは……」


 言葉を探す私に、悠人が振り返る。


「どうした?」


「……魔道エンジン車」


 思わず、そう答えていた。


「しかもこれ、軍用規格……」


 エルフの国でも、王都に数台あるだけ。

 管理は厳重で、国の許可なしに動かすことなどできない。


「なんで、こんなものを……」


 悠人は少しだけ考えたあと、


「まあ……ちょっとな」


 と、曖昧に笑った。


「借りてるだけだよ」


「借りてる?」


「返す予定はある」


 ある、とは言った。

 いつ返すかは、言わなかった。


 セナは何も補足しない。

 それが、余計におかしかった。


(……聞かない方がいいやつね)


 直感が、そう告げている。



 車内は静かだった。

 

 車は、信じられないほど滑らかに走った。


 振動はほとんどなく、舗装されていない道でも速度が落ちない。


(設計が、洗練されすぎてる)


 私は、自分の杖を膝の上に置いた。


 王族用に調整されたアーティファクト。

 扱いやすく、魔力伝達効率も高い。


 ――それでも。


(この車、私の杖より……)


 比較するのも、馬鹿らしい。

 性能の話ではない。


「ねえ」


 私は、悠人に声をかけた。


「あなたたち、ダンジョンにも潜るの?」


「あぁ」


「アーティファクト狙い?」


「場合による」


 歯切れが悪い。


「相性次第だ」


 悠人は、運転しながら言った。


「使えない武器を拾っても意味がない」


「……それは、そうね」


 アーティファクトはダンジョンでドロップする。

 誰でも使える。

 でも、引き出せる力は使い手次第。


 それは、私も知っている。


 自分の杖だって、最初から完璧に扱えたわけじゃない。


「あなたたちは、たくさんのアーティファクトを持っているの?」


 そう私が聞くと、セナがちらりと私を見た。


 答えたのは、悠人だった。


「まあ……困らない程度には」


 また、曖昧。


 踏み込ませない壁。


(不思議ね)


 隠している、というより――

 語る価値がないと思っている。


 そんな態度だった。



 景色が流れていく。


 新大陸の荒野。

 魔獣の影。

 遠くに見える遺構。


 私は、ふと思った。


 この人たちといると世界の常識が、

 少しずつ、ズレていく。


 アーティファクトを持つことは、特別なはずなのに。

 魔道エンジン車は、国家の象徴のはずなのに。


 彼らにとっては、どれも「手段」でしかない。


「エリシア、覚えておきなさい」


 セナが、前を見たまま言った。


「?」


「知識と理解は、別物よ」


 その言葉が、妙に胸に残った。


 私は、杖を握り直す。


(私は、理解しているつもりだった)


 アーティファクトも。

 強さも。

 世界の仕組みも。


 でも――


(この人たちの隣に立つなら)


 今のままじゃ、足りない。


 魔道エンジンの低い駆動音が、

 静かに、前へと進んでいった。


 ――そして私は、まだ知らない。

 セントラルに着く前に、

 もう一度“引き返せなくなる選択”を迫られることを。

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