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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第5章 切られた枝の、その先で

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第35話 枝が折れる時

 その依頼は、受け取った瞬間から違和感を孕んでいた。


 黒寄り。

 条件は揃っている。


 金。

 口止め。

 罪の引き受け。


 どれもが過不足なく、妙に整っていた。


「……整いすぎじゃの」


 書状を畳み、ルシアが小さく呟く。


「向こうは慣れてる」


 ゼルが短く言った。


「黒寄りの“出し方”を知ってる奴だ」


 依頼内容は、国境沿いに点在する盗賊団残党の処理。

 だが添えられた地図を見て、二人は同時に察していた。


 これは、残党ではない。


「配置が妙じゃ」


 ルシアが地図を指先でなぞる。


 点在する小さな拠点。

 どれもが距離を保ち、互いを補完する位置にある。


「逃げてる配置じゃねえな」


 ゼルが続ける。


「待ってる。

 数を揃えて、囲う気だ」


 ルシアは、地図から目を離した。


「狙いは人間ではない」


 一拍。


「ブラックツリーじゃ」


 沈黙が落ちた。


「……俺たちを?」


 ルシアは淡々と言う。


「一度見られたか。

 あるいは、噂を聞いたか」


「どっちにしろ、試しだな」


 ゼルが肩をすくめる。


「それでも、受ける」


 それは確認ではなかった。

 結論だった。



 合流地点は、町外れの廃屋だった。


 ブラックツリーの拠点ではない。

 協力者である葉たちは、あくまで“外”の人間だ。


 集まったのは三人。

 前回より一人多い。


 空気は、重かった。


 ルシアは全員を見渡し、簡潔に告げる。


「今回、相手はこちらを知っとる可能性が高い」


 ざわめきは起きなかった。

 だが、呼吸がわずかに浅くなる。


「それでも、やる」


「役割は変わらん」


 続けて言う。


「お前らは囮と制圧補助。

 前には出るな」


「俺が行く」


 ゼルが短く言った。


 協力者たちは頷いた。


 自分たちが守られる側であること。

 その分、前に立つ二人に負荷が集中すること。


 理解した上で、ここに立っている。



 夜。


 最初の拠点は、静かすぎた。


 見張りが落ちる。

 音はない。

 影が崩れ、気配が消える。


「……やっぱりだな」


 二つ目に踏み込んだ瞬間、空気が変わった。


「来るぞ」


 次の瞬間、闇が弾ける。


 矢。

 魔力。

 足音――多い。


「お前ら、下がれ!」


 ゼルの怒声。


 刃がぶつかり合い、火花が散る。


 想定より早い。

 想定より多い。


 完全に、待ち構えられていた。


 ゼルが前に出る。


 一人で、受ける。


 剣を弾き、

 体を盾にし、

 射線を潰す。


 重い。


 確実に削られていく。


 それでも、下がらない。


 ルシアは、一瞬だけ歯を噛みしめた。


 撤くべきだ。

 だが撤けば――


「ここで引けば、悠人に選択をさせることになる」


 ゼルが、息の合間に言った。


 その一言で、理解する。


 今は、悠人に判断を預けられない。


  ルシアは前に出た。


 一閃。

 喉が裂ける。


 二閃。

 影が崩れる。


 ――その瞬間だった。


 死角から、鈍い衝撃。


「……っ!」


 身体がわずかに跳ね、地を擦る。


 浅い。

 致命ではない。


 だが、確実に――持っていかれた。


 呼吸が、僅かに乱れる。

 魔力の流れが、一拍遅れる。


 それでも、止まらない。


 足を踏み出し、刃を振るう。

 動きは正確だ。

 だが、どこか強引だった。


 ――無理をしている。


 それは、誰の目にも明らかだった。


 魔力が歪む。


 いつもなら使わない。

 跡が残る。

 折れ目になる。


 だが、選べない。


「……折れねばならんのは、

 こっちじゃ」


 闇が圧縮される。


 音が消え、

 影が潰れた。



 静寂。


 勝った。


 だが、ルシアは膝をついた。


「……悪い」


 短く吐き捨てるように。


「喋るな」


 ゼルが即座に支える。


 血が、地面に落ちた。


 致命傷ではない。

 だが、無理をした体には重い。


 葉は、声を失っていた。


 守られた。

 だが――

 初めて、枝が傷ついた。


 ルシアは、顔を上げて告げる。


「この件、終わっとらん」


 一拍。


「次は、同じことはできん」


 それだけだった。


 枝は、まだ折れていない。


 だが――

 折れうる。


 その事実だけが、夜に残った。

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