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最強なのに表に出る気がない俺が、世界の裏側に立つギルドを作った話  作者: 月詠
第5章 切られた枝の、その先で

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第32話 黒寄りの依頼

 その依頼は、最初から「黒寄り」だった。


 国境沿いで動く盗賊団の壊滅。

 表向きは討伐依頼だが、実態は違う。


 団の首領と幹部――

 生かしておけば面倒になる人間を、確実に消すこと。


 依頼主は名を伏せた商会。

 だが裏で糸を引いているのが、どの貴族かは察しがついた。


 金は十分。

 証拠は不要。

 後腐れもない。


 ブラックツリーでは、こういう仕事を黒寄りの依頼と呼ぶ。


 暗殺。

 違法。

 表に出せない調整。


 そういった役目は、自然と決まった枝が請け負う。


 ルシアとゼルだ。



 夜、焚き火の前に集まっていたのは四人。


 ルシアとゼル。

 そして二人が使う“葉”が二人。


 葉たちは緊張を隠せずにいた。


「……固いのう」


 焚き火の向こうで、ルシアが首を傾げる。


 外見は幼い少女。

 だが声には、長い時間が滲んでいた。


「今回の相手、そこそこ面倒だからな」


 ゼルが肩をすくめる。


「黒寄りだ。

 失敗したら、後がうるさい」


 葉の一人が、唾を飲み込んだ。


「怖いかの?」


 ルシアが尋ねる。


「……いえ」


 正直な答えだった。


「ただ、足を引っ張ったらと」


「ふむ」


 ルシアは焚き火に小枝を投げ入れる。

 ぱち、と火花が散った。


「安心せい。

 失敗するのは、お主らではない」


 葉たちが顔を上げる。


「失敗したなら、それは枝の責任じゃ」


 静かな断言。


「葉は、枝が使う道具。

 道具が壊れたなら、使い方を誤った手が悪い」


「相変わらず極端だな」


 ゼルが苦笑する。


「事実なのじゃ」


 ルシアは笑わない。


「葉を使うとは、命を預かるということ。

 軽く扱えるわけがなかろう」


 立ち上がり、二人の葉を見下ろす。


「今回の仕事、お主らは前に出るな。

 囮と制圧補助、それだけでよい」


「ですが――」


「それ以上は、枝の役目じゃ」


 はっきりと言い切る。


「生き残れ。

 生きて帰れ。

 それが、お主らの仕事なのじゃ」


 葉たちは、深く頭を下げた。


 そこに疑念はなかった。



 戦闘は、短かった。


 夜を裂く影。

 最初に倒れたのは見張り。


 続いて、本隊。


 前に出たのは、ルシアとゼルだけ。


「遅いのう」


 小さな体が、闇を跳ぶ。


 一閃。

 首が落ちる。


「容赦ねえな」


「枝が血を被らねば、葉が汚れるからの」


 それが、彼女の理屈だった。


 汚れ仕事は枝が引き受ける。

 葉は守る。


 ブラックツリーの流儀だ。



 全てが終わった後。


「……ありがとうございました」


 葉の一人が、震える声で言った。


「礼などいらん」


 ルシアは血の付いた刃を拭う。


「使っただけじゃ」


 そして、ふっと笑う。


「だがの」


 その笑みは、少女のものではなかった。


「使い潰す気は、毛頭ない」


 ブラックツリーは、木だ。


 幹がいて、枝があり、葉がある。


 葉は切られることもある。

 だがそれは、軽いからではない。


 枝が、覚悟を持って振るった結果だ。


 夜明け前の森に、静寂が戻る。


 枝は、今日も折れなかった。

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