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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第4章 値段のついた正義

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第27話 値札の付いた依頼

 ブラックツリーの拠点に、ひとつの依頼が流れ込んだのは、街が眠り始める時間帯だった。


 情報結晶が静かに明滅し、ノアが内容を読み上げる。


「南西部、山間部の村。隣接する小国家からの圧政。徴税の名目で兵が駐留、住民の拘束あり」


 声は淡々としている。

 だが、並べられた単語はどれも重い。


「村の規模は小。人口二百前後。抵抗手段なし。依頼主は村長代理」


 いわゆる“正義側”の依頼だった。


 セナは思わず眉をひそめる。


「それ、放っておいたら……」


「被害は拡大します」


 ノアが言葉を継いだ。


「ただし、介入成功率は七割。問題はその後です」


 情報板に、追加の数字が浮かぶ。


「介入後、隣国との関係悪化。報復の可能性。再侵攻の確率三五%。長期的な警戒コストが高い」


 アスカが横から覗き込み、小さく息を吐いた。


「典型的だね。正しいけど、安い」


 誰かを挑発するでもなく、事実としての一言だった。


 提示された報酬額は、確かに“ギリギリ”だった。

 赤字ではない。

 だが、余裕もない。


「この金額だと、派遣は一組。短期解決前提になります」


 ノアが続ける。


「逃げ場なし。再発した場合、次回は無償に近い対応になる可能性が高い」


「感情で値段を決めてる」


 アスカが肩をすくめた。


「助けたい気持ちは分かる。でも、助けた“後”の値段を、誰も払わない」


 セナは黙り込んだまま、情報板を見つめていた。


 理屈は理解できる。

 計算も、間違っていない。


 それでも、胸の奥に引っかかるものがある。


「……それでもさ」


 言いかけて、言葉を飲み込む。


 悠人はまだ何も言っていなかった。


 椅子に深く腰掛け、指先で情報をスクロールしている。

 視線は内容ではなく、数字に向けられていた。


「報酬の内訳は?」


「前金三割。成功報酬七割。失敗時の補償なし」


「交渉余地は」


「ほぼありません。これが限界です」


 ノアは一拍置いて、付け加えた。


「この条件なら、他のギルドも同じ判断をします」


 その言葉は、慰めでも、突き放しでもなかった。

 ただの事実だった。


 悠人は一度だけ頷いた。


 即答しない。

 だが、迷っている様子もない。


 その態度に、セナは少しだけ安心してしまう。

 ――まだ、考えてくれている。

 そう思いたかった。


「悪くはない依頼だ」


 悠人が言った。


 否定でも、肯定でもない言い方だった。


「ただし」


 その一言で、場の空気がわずかに引き締まる。


「値段が付いている。そこを忘れるな」


 ノアが静かに補足する。


「ブラックツリーは、依頼を“救済”として扱いません」


「全部、案件」


 アスカが淡々と言った。


「並べて、比べて、選ぶ。それだけ」


 セナは、その言葉に小さく息を呑んだ。


 “並べる”。


 村と、国家と、金額と、人の命を。

 同じ棚に。


 理解できてしまうのが、怖かった。


「……まだ、決めないんだよね?」


 セナの問いに、悠人は視線を上げる。


「ああ」


 短い返事。


「判断材料が足りない」


 その言葉は、どこまでも冷静だった。


 だが、その“足りないもの”が何なのかを、誰も口にしなかった。


 情報結晶が、再び淡く光る。


 別の依頼が、届き始めている。


 同じ地域。

 同じ問題。


 ただし、条件が違う。


 値段も。


 セナは、それに気づいてしまい、胸の奥がざわついた。


 この正義は、まだ棚の上にある。


 だが、上書きされる余白も、確かに残っていた。

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