表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第3章 エリシアの試練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

第25話 試練の終わり

 宝物庫を後にしても、ダンジョンは静まり返ったままだった。


 揺れはない。

 崩落の兆しもない。


 終わったはずの戦いの余韻だけが、空気に薄く残っている。


 エリシアは、手にした新しい杖を見つめた。


 グラヴィス・ノクス。


 黒を基調とした細身の杖。

 装飾はほとんどなく、一見すれば地味ですらある。


 だが――

 内部に刻まれた魔法陣は、明らかに異質だった。


(……重力)


 はっきりと、わかる。


 術式は複雑で、層が深い。

 通常の重力操作とは比べ物にならないほど緻密で――そして、危うい。


(今の私じゃ……完全には扱えない)


 力を流せば、応えてはくれる。

 だがそれは、あくまで“制限された応答”だ。


 踏み込みすぎれば、制御を失う。

 この杖は、使い手を選ぶ。


 エリシアは小さく息を吸い、

 足元近くに転がっていた拳大の石に意識を向けた。


「……少しだけ」


 魔力を流す。


 次の瞬間。


 石が、地面に押し付けられた。


 音もなく、

 じわりと沈む。


 砕けない。

 潰れない。


 ただ、重くなった。


「……これが」


 重力魔法。


 対象の質量そのものを書き換える感覚。

 威力は小さいが、方向も範囲も、はっきりと制御できている。


「十分すごいと思うけどな」


 少し離れた場所から、悠人の声がした。


「エリシアが使うなら、これくらいでちょうどいい」


「……そう?」


「これ以上は、扱う側が壊れる」


 淡々とした言い方だった。

 だが、その言葉には一切の冗談が混じっていない。


 エリシアは少し迷ってから、杖を差し出した。


「……じゃあ、悠人が使うとどうなる?」


 悠人は一瞬だけ視線を杖に落とし、

 それを受け取った。


「壊すよ?」


「……でしょうね」


 それでも、止めなかった。


 悠人は何の構えもなく、

 エリシアが重力をかけたのと同じ石に向けて杖を向ける。


 魔力が、流れた。


 次の瞬間。


 石が――潰れた。


 粉砕ではない。

 破壊でもない。


 内側から押し潰され、

 耐えきれず、ひしゃげて、粉になった。


 同時に、地面が陥没する。


 重力が一点に集中した結果だった。


 そこには、

 小さなクレーターのような穴だけが残っている。


 悠人は、何事もなかったように杖を戻した。


「……こんな感じ」


 エリシアは、言葉を失った。


(同じ魔法……同じ杖……)


 なのに、結果が違いすぎる。


 力の差じゃない。

 魔力量の問題でもない。


 “扱い方”が、次元ごと違う。


(……やっぱり、この人は)


 やばい。


 改めて、そう認識した。


 グラヴィス・ノクスが、手元に戻る。


 王族のアーティファクトは、もうない。

 守られる立場でも、隠された存在でもない。


 それでも。


(私は、これでいい)


 未完成でいい。

 制御できなくてもいい。


 誤魔化さず、逃げず、

 自分で選んだこの重さを背負っていく。


 エリシアは、静かに杖を握りしめた。


 ダンジョンは、まだ崩れていなかった。


 それが何を意味するのかを――

 彼女は、まだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ