第23話 捨てる選択
防御が、間に合わなかった。
正確には――
間に合うはずだった。
エリシアは、いつもの構成で防壁を展開した。
判断も早い。
魔力の配分も、完璧。
それなのに。
模倣体の魔法が、
防壁の「完成」を待つことなく、
ぶつかってきた。
「……っ!」
衝撃に、身体が揺れる。
致命傷ではない。
だが、確実に――押された。
(……今の)
(私より、早い……?)
違う。
早いんじゃない。
模倣体は、
エリシアが「そうする」と決めた瞬間を、
待っていなかった。
――選択そのものを、なぞっている。
距離を取る。
詠唱を短縮する。
安全な出力に抑える。
次々と浮かぶ“正解”。
だが、それらはすべて、
模倣体にとっても「正解」だった。
同時に動く。
同じ魔法を撃つ。
同じ結果に収束する。
床に亀裂が走る。
天井から砂が落ちる。
けれど、どちらも倒れない。
(……だめだ)
(このままじゃ)
勝てない。
いや、それ以前に。
(私は、何も変えてない)
杖を握る手に、力がこもる。
王族のアーティファクト。
暴走を許さず、
失敗を最小限に抑え、
「正しい戦い方」を保証してくれる力。
それは――
今も、確かに役に立っている。
だからこそ。
模倣体は、迷わない。
安全な距離。
確実な魔法。
負けないための判断。
すべてが、
エリシアの「いつも通り」。
そして。
模倣体の杖も、
まったく同じように光っていた。
(……逃げ道だ)
同じ杖。
同じ戦い方。
同じ保険。
完全に、
同じ「逃げ道」を持っている。
エリシアの胸が、締めつけられる。
(これを持ってる限り)
(私は、ここを越えられない)
模倣体が、次の魔法を構える。
それは――
エリシアが、最も信頼している一撃。
防げる。
確実に。
いつも通りなら。
だが。
その「いつも通り」を選んだ瞬間、
何も変わらないことを、
エリシアは、もう理解していた。
息を吸う。
怖い。
制御できないかもしれない。
失敗するかもしれない。
それでも。
(……逃げたくない)
エリシアは、
杖を――
手放した。
乾いた音がして、
王族のアーティファクトが床を転がる。
その瞬間。
模倣体の動きが、
ぴたりと止まった。
魔力の流れが、
一瞬だけ、乱れる。
同じ選択が――
できなかった。
エリシアの身体に、
荒々しい魔力が満ちる。
制御はない。
補助もない。
今まで、避けてきた感覚。
「……っ、く……!」
魔法は歪み、
構成は崩れ、
世界が、軋む。
それでも。
エリシアは、立っていた。
誰にも守られず、
誰にも委ねず、
自分で選んだ場所に。
(これが……)
(私の、戦い)
模倣体が、再び動き出す。
だが、その動きは、
ほんのわずかに――遅れた。
完全なコピーは、
もう、できない。
勝てるかどうかは、分からない。
それでも。
この一撃だけは、
誰の真似でもない。
エリシアは、
自分の魔力を、
自分の意思で、放った。
――結果は、まだ見えない。
だが確かに、
戦いは、ここから変わった。




