第22話 鏡に映る自分
戦闘は、続いていた。
だが――
どこか、もう「戦い」ではなかった。
模倣体の動きは、正確すぎる。
早いわけでも、
力強いわけでもない。
それなのに、
エリシアの魔法は、ことごとく無力化された。
攻撃は、相殺される。
間合いは、潰される。
隙を作ろうとすれば、先に塞がれる。
(……おかしい)
呼吸を整えながら、エリシアは思う。
(対応されてるんじゃない)
(最初から、そこにいる)
模倣体は、
エリシアの魔法を「見てから」動いていない。
知っている動きに、なぞっている。
それに気づいた瞬間、
背筋を冷たいものが走った。
エリシアが距離を取る。
それに合わせて、
模倣体も、同じ距離だけ下がる。
エリシアが詠唱を短縮する。
模倣体も、同じ構成で応じる。
(……癖だ)
思わず、舌打ちが漏れそうになる。
(私の、癖)
自覚はあった。
だが、ここまで明確に突きつけられたのは初めてだった。
危険を感じたら距離を取る。
不利なら、出力を上げる。
押し切れない時は、杖の補助に任せる。
安全で、確実な勝ち方。
それは、間違いじゃない。
今まで、それで生き延びてきた。
だが――
模倣体は、
その「安全」を、完全に再現している。
だから、勝てない。
同じ選択を、
同じタイミングで重ねてくる以上、
結果は永遠に平行線だ。
(私は……)
エリシアは、杖を強く握りしめた。
王族のアーティファクト。
膨大な魔力制御を可能にし、
暴走を許さない。
強力で、
便利で、
信頼できる――はずの力。
だが今は。
(これがある限り)
(私は、踏み出せない)
模倣体の魔法が、放たれる。
次に来るのは、分かっていた。
自分が、いつも使う「締め」の一撃。
防げる。
確実に。
エリシアは、そう判断する。
そして――
その判断通りに、身体が動いた。
結果、魔法は相殺。
広間に、また何も残らない。
床の傷だけが、増えていく。
胸の奥に、
重たいものが沈んでいく。
(……私)
(戦ってない)
勝とうとしているだけ。
負けないように、動いているだけ。
そこに、
「自分で選ぶ」瞬間はない。
模倣体は、黙ったまま立っている。
責めもしない。
煽りもしない。
ただ、
ありのままのエリシアを映している。
それが、何より残酷だった。
(こんな……)
(こんな戦い方をしてたのか)
膝が、わずかに震える。
魔力は残っている。
体力も、まだ余裕がある。
それでも、
心の方が先に、限界を迎え始めていた。
(このまま続けたら)
(私は、折れる)
勝てないからじゃない。
負けるからでもない。
自分を誤魔化したまま、終わる。
それだけは、耐えられなかった。
エリシアの視線が、
ゆっくりと、自分の杖へ落ちる。
信頼してきたもの。
頼り続けてきたもの。
そして――
今の自分を縛っているもの。
模倣体も、
同じように、杖を構えていた。
完全に、同じ姿。
同じ「逃げ道」。
その瞬間、
エリシアの胸に、はっきりとした答えが浮かぶ。
(……これを持ってる限り)
(私は、ここを越えられない)
息を、吸う。
恐怖はある。
不安もある。
だが、
それ以上に。
(逃げたくない)
その感情だけが、
まだ折れずに、残っていた。
エリシアは、ゆっくりと――
杖を構え直した。
だが、
それは次の魔法のためではない。
選び直すための、動作だった。
――次の瞬間、
彼女は、決定的な選択をすることになる。
それが、
勝利への一歩になるのか、
完全な敗北になるのか。
まだ、
誰にも分からない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
このままでは、終われない。




