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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第3章 エリシアの試練

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第21話 模倣体との遭遇

 広間に、音はなかった。


 足音も、呼吸も。

 ただ、魔力の流れだけが、静かに満ちている。


 エリシアは、正面に立つ存在から目を離せなかった。


 姿形。

 背丈。

 構え。


 ――すべてが、自分と同じ。


 右手に握られた杖も、例外ではない。


 柄の傷。

 先端の魔力の灯り。

 微妙な癖で傾いた持ち方。


(……同じ、だ)


 偶然ではない。

 似ている、でもない。


 完全な再現。


 相手は、何も言わない。

 声を発する様子すらない。


 それでも、エリシアは理解していた。


(これは……魔物じゃない)


 敵意は感じる。

 だが、殺意とは少し違う。


 試されている。

 そうとしか言いようがなかった。


 エリシアが一歩、踏み出す。


 それに合わせて、

 模倣体も、同じ距離、同じ角度で前に出た。


 呼吸のタイミングまで、揃っている。


(……気味が悪い)


 だが、だからといって引く理由にはならない。


 エリシアは杖を構え、

 魔力を集束させる。


 初動は、牽制。

 速さと精度を重視した――いつもの一撃。


 放たれた魔弾が、一直線に走る。


 だが。


 模倣体の杖が、同時に振られた。


 同質の魔力。

 同じ構成式。

 同じ出力。


 二つの魔弾が、空中で正確に衝突し、

 霧散する。


「……っ」


 驚きよりも先に、

 違和感が胸を刺した。


(対応が早い、じゃない)


(最初から、知ってた……)


 間髪入れず、次の魔法。


 範囲を広げる。

 回避を強制する。


 だが、模倣体は下がらない。


 同じ判断。

 同じ選択。


 真正面から、同じ魔法を重ねてくる。


 魔力がぶつかり合い、

 広間の空気が軋む。


 床に走る亀裂。

 天井から落ちる砂。


 だが――


 どちらも、傷を負わない。


(……勝てない、わけじゃない)


 力は互角。

 制御も、精度も。


 それなのに。


(噛み合わない)


 一手一手が、

 完全に相殺される。


 攻めれば、同じ攻め。

 引けば、同じ距離。


 まるで、自分の戦闘ログをなぞられているようだった。


 エリシアは、奥歯を噛み締める。


(私が、どう動くか……)


(全部、分かってる)


 その考えが浮かんだ瞬間。


 模倣体が、わずかに先に動いた。


 ――半拍、早い。


 放たれた魔法は、

 エリシアが「次に使うはずだった」構成。


 反射的に防御する。


 間に合った。

 だが、体勢が崩れる。


(今の……)


 偶然じゃない。


 模倣体は、

 先を読んでいる。


 エリシアの戦い方。

 選択の癖。

 安全を取る瞬間。


 それらすべてを、

 “自分以上に正確に”使ってくる。


 胸の奥が、じわりと冷えた。


(私……こんな戦い方をしてた?)


 杖に、視線が落ちる。


 無意識だった。

 だが確かに、頼っている。


 迷ったら、杖。

 危なくなったら、杖。


 王族のアーティファクト。

 安全に、確実に勝つための――力。


 その瞬間。


 模倣体の魔力が、わずかに揺らいだ。


 まるで、

 考えを読んだかのように。


 エリシアの喉が、鳴る。


(……これ以上続けたら)


(私は、このまま負ける)


 力負けではない。

 技量負けでもない。


 自分自身に、押し潰される。


 その予感だけが、

 はっきりと形を持っていた。


 模倣体が、再び杖を構える。


 次の一手は――

 エリシア自身が、最も「安全だ」と信じている魔法。


 それを理解した瞬間。


 エリシアの胸に、

 初めて、はっきりとした亀裂が入った。


(……私、ずっと)


(守られてただけ、だったのか)


 その気づきは、

 まだ言葉にならない。


 だが確実に、

 心を折る準備を始めていた。


 ――鏡は、容赦なく真実を映す。


 次の一手で、

 それを直視することになるとも知らずに。

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