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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第3章 エリシアの試練

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第19話 未踏破という価値

第19話|未踏破という価値


 未踏破ダンジョン――

 その言葉は、本来なら恐怖と結びつくはずだった。


 だが、街の空気は違う。


 人々は怯えていない。

 避けてもいない。


 話題にしている。


「白銀血盟が先に入ったなら、相当だな」

「第2席の先遣隊だろ? 難易度は上だ」

「管理権、どこが取ると思う?」


 交わされているのは、警戒ではなく――値踏みだった。


 エリシアは、その会話を聞き流しながら歩いていた。


(……変だな)


 帰ってこなかった者がいる。

 それも、名の知れた騎士団の精鋭が。


 それなのに、街は平然としている。


 悲鳴も、混乱もない。


 あるのは、

 「次は誰が動くか」という視線だけだった。



「未踏破ってのはな」


 悠人が、前を向いたまま言った。


「“危険”じゃない。“価値”だ」


 エリシアは、歩調を合わせたまま視線を向ける。


「……価値?」


「誰も辿り着いてないってことは」

「中身が残ってるってことだ」


 淡々とした口調だった。


「アーティファクトかもしれない」

「資源かもしれない」

「国が欲しがる何か、かもしれない」


「だから、奪い合いになる」


 エリシアは思い出す。


 ダンジョンを見つけた者が、

 最初の侵入権を得る――という暗黙の了解。


 争いを防ぐための、不文律。


「発見者が権利を売ることもある」

「協会に報告すれば、難易度も測られる」

「国が管理するかどうかも決まる」


 それらは、すべて

 ダンジョンを“資源”として扱うための仕組みだった。


(危険だから、避けるんじゃない)


(価値があるから、管理する……)


 その考え方に、

 エリシアはわずかな違和感を覚える。


 今までの自分なら、

 強い敵がいるなら倒す。

 危険なら、排除する。


 単純だった。


 だが、この世界では違う。


 「誰が、どう向き合うか」が先にある。



「生き残った連中の話、聞いたか?」


 すれ違った冒険者が言った。


「ああ。妙な証言だな」

「敵の姿を覚えてないらしい」


「共通してるのは一つだけだ」


 声が、低くなる。


「――自分自身にやられた」


 エリシアの足が、一瞬だけ止まりかける。


(自分に……?)


 魔物でもない。

 罠でもない。


 それなのに、敗因が“自分”。


 意味が分からない。


 分からないからこそ、

 胸の奥が、静かにざわついた。



「怖いか?」


 悠人が、何気なく聞いた。


「……少し」


 正直な答えだった。


「でも、それだけじゃない」


 エリシアは、前を見据える。


「危険だから行く、って感じじゃない」

「……試されてる気がする」


 悠人は、わずかに口元を緩めた。


「だろ」


 それ以上は言わない。


 けれど、その沈黙が示していた。


 このダンジョンは、

 力を測る場所じゃない。


 選択を突きつけてくる場所だ。



 遠くに、封鎖された渓谷が見える。


 まだ中へは入らない。

 だが、境界線は、もうすぐそこだった。


 エリシアは、

 無意識に自分の杖に触れかけて――やめた。


(……まだだ)


 答えは、まだ見えない。


 けれど。


 未踏破という価値が、

 なぜここまで人を惹きつけるのか。


 その理由を、

 自分の目で確かめる必要がある。


 逃げずに。

 誤魔化さずに。


 そう思えた時点で、

 もう後戻りはできなかった。


 次に進む場所は――

 まだ、誰も踏み込んでいない領域。


 価値と危険が、

 同じ形をして待っている――

 そんな場所だと、直感していた。

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