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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第3章 エリシアの試練

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第18話 余韻と決意

 戦いは、すでに終わっていた。


 噴水跡に残るのは、崩れた石と焦げた地面。

 街は動き出しているのに、エリシアの思考だけが、そこに置き去りになっていた。


(……ああいう戦いか)


 悠人と、あの剣。


 力の衝突。

 けれど、ただの力比べではなかった。


 選んでいた。

 剣を持つことも、持たないことも。


(私は……)


 エリシアは、自分の立っていた場所を思い返す。


 戦場の外。

 安全な距離。


 判断する必要もなく、

 迷うこともなく、

 ただ「見て」いた。


(私は、あそこに立てない)


 そう理解した瞬間、胸の奥が静かに冷えた。


 今まで、負けたと思ったことは何度もある。

 でもそれは、次は勝てるという前提のある敗北だった。


 昨日は違う。


(そもそも、同じ土俵にいない)


 それが、事実だった。


 強いか弱いかじゃない。

 覚悟の位置が、違う。


「……まだだな」


 ぽつりと漏れた言葉に、自分で驚く。


「私は、まだ足りてない」


 否定ではない。

 評価としての結論。



 その夜。


 エリシアは、ブラックツリーの拠点を訪れていた。


 中庭の端で、セナが剣の手入れをしている。

 戦いの後とは思えないほど、いつも通りの動き。


 ――あの距離感。


 前にも後ろにも寄らず、

 必要な時だけ、迷いなく踏み込む。


(あの人は……もう、立ってる)


 自分が立てなかった場所に。


 エリシアは、静かに視線を切り、悠人の前に立った。


 背筋を伸ばす。

 視線は逸らさない。


「……私を、ブラックツリーに入れてください」


 そこだけ、きちんとした敬語だった。


 悠人は、少しだけ眉を上げる。


「理由は?」


「昨日、戦いを見た」


 それだけで、十分だった。


「私は今まで、考えなくても進めてた」

「どう戦うかじゃなく、勝てるかどうかだけを見てた」


 少し間を置く。


「それで通ってきただけ」


 悠人は、何も言わない。


「でも、昨日は違った」

「あの場で必要だったのは、力じゃない」


 選択だ、と言いかけて、やめる。


「……だから」

「このままじゃ、先に行けないと思った」


 沈黙。


 やがて、悠人が短く言った。


「わかった」


 それだけだった。


 条件も、説明もない。


 エリシアは、小さく息を吐いた。


 その様子を、セナが横目で見ている。

 何も言わず、評価もしない。


 ただ、静かに受け入れたようだった。



「だが、一つ言っておく」


 悠人が続ける。


「鍛える前に、やることがある」


「何?」


「自分を知れ」


 短い一言。


「知らないまま強くなっても、同じところで止まる」


 胸に、静かに沈んでいく言葉だった。


(自分を、知る……)



 翌日。


 二人は、情報が集まる酒場にいた。


「未踏破のダンジョンが見つかったらしい」

「白銀血盟騎士団の先遣隊が入ったって」


「第2席の連中だろ?」

「帰ってきたのは、ほんの一部だ」


 エリシアは、会話の端を拾う。


「生き残った奴ら、妙なこと言っててな」

「敵の姿を、はっきり覚えてないらしい」


「ただ一つだけ、共通してる」


「“自分にやられた”って」


 背中に、薄く寒気が走る。


 悠人が椅子から立ち上がった。


「行くぞ」


「……そこに?」


「今のお前に必要なのは、ああいう場所だ」


 逃げ場のない場所。

 言い訳のできない場所。


 エリシアは、静かに息を吐いた。


(自分を、知れ……か)


 なら、避ける理由はない。


「分かった」


 声は落ち着いていた。


 まだ答えはない。

 けれど、探しに行く理由は、もう十分だった。


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