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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第2章 所有しない剣

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第14話 歪み始める封印

 最初に感じたのは、違和感だった。


 セントラル中央区。

 昼下がりの広場は、今日も変わらず賑わっている。


 露店の呼び声。

 石畳を叩く靴音。

 噴水跡の縁では、子どもたちが追いかけっこをしていた。


 ――いつも通りの光景。


 なのに。


(……何か、おかしい)


 理由は分からない。

 ただ、足が止まった。


 胸の奥が、じわりと重くなる。

 視線が、勝手に引き寄せられる。


 噴水跡の中央。

 石畳を割るように、一本の剣が突き立っていた。


 装飾は少ない。

 光を放っているわけでもない。


 それなのに、目を逸らせない。


(……あんなの、前からあったか?)


 周囲を見る。

 だが、誰も気にしていない。


 人々は剣を避けるように歩き、

 視線は無意識に逸らされている。


 まるでそこに

 「見ない方がいいもの」があるとでもいうように。


 喉が、乾いた。


(気づいてるの、俺だけか……?)


 笑い飛ばそうとした。

 気のせいだと、通り過ぎるつもりだった。


 それなのに――


 一歩、踏み出していた。


 石畳を踏む音が、やけに大きく響く。

 周囲のざわめきが、少しずつ遠ざかる。


 剣に近づくほど、

 胸の奥がざわついた。


 怖い。

 それ以上に、離れがたい。


(……呼ばれてる?)


 馬鹿げている。

 剣が人を呼ぶなんて、聞いたことがない。


 だが、そうとしか思えなかった。


 噴水跡の縁に立つ。

 あと数歩で、剣に手が届く。


 その時だった。


『……来たか』


 声が、直接頭に響いた。


 思わず息を呑む。


「……喋る、のか」


 喉がひくりと鳴る。


『安心しろ』

『今は、まだ選ばぬ』


 低く、落ち着いた声。

 だが、どこか――迷いが混じっている。


(……え?)


『理解できない』

『拒まれた理由が、まだ分からない』


 剣の周囲で、

 わずかに魔力が揺れた。


 派手な解放ではない。

 威圧でもない。


 歪み。


 封印が壊れかけているわけではない。

 だが、確実に“緩んでいる”。


(封じられてる……?)


 なぜか、そう理解できた。


『測るべきか』

『学ぶべきか』


 剣の声が、微かに震える。


『選ばれなかった』

『それでも、私は在る』


 胸が、きゅっと締め付けられた。


 裁く存在。

 選ぶ存在。


 そんなものだと思っていた。


 なのに、今聞こえる声は――

 あまりにも人間臭い。


「……なあ」


 気づけば、口を開いていた。


 声が、少し震える。


「分からないならさ」

「考えればいいんじゃないか」


 言ってから、後悔した。

 何を偉そうに、と。


 だが、もう遅い。


 剣は、沈黙した。


 完全な静寂。


 その瞬間。

 剣の奥で、何かが“定着”するのを感じた。


 魔力が、静かに巡り始める。

 封印の隙間を縫うように。


 ――力が、戻り始めている。


 それを、剣自身も理解していた。


『……そうか』


 声が、わずかに変わる。


 硬さが、薄れ。

 探るような響きになる。


『理解するためには』

『知る必要がある』


 剣は、まだ抜けない。

 だが、“在り方”が変わった。


 封じられたまま、

 前よりも、確かに強く存在している。


『名を』


 剣が、問いかける。


『お前の名を、教えろ』


 一瞬、迷った。


 名を告げることに、

 意味がある気がして。


 それでも――


「……俺は――」


 名を告げた瞬間。


 剣の奥で、

 封印の一部が、静かに軋んだ。


 大きな音はしない。

 誰も気づかない。


 だが確実に、

 何かが次の段階へ進んだ。


 広場は、今日も平和だ。


 誰一人として、

 この変化を知らない。


 ――この剣が、

 再び世界を揺らす存在になることを。


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