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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第2章 所有しない剣

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第12話 封印という結論

 朝のセントラルは、何事もなかったかのように動き出していた。


 人々は広場を横切り、

 子どもは噴水跡の縁を跳ね、

 商人はいつも通り声を張り上げる。


 その中心に、剣があることに――

 誰も、気づいていない。


 いや、正確には。


 気づこうとしていない。


「……まだ、あるわね」


 エリシアが、小さく息を吐いた。


 昨夜と同じ場所。

 剣は、石畳に突き立ったままだ。


 だが、様子が違う。


 存在感が、薄い。

 魔力も、意志も、奥へ奥へと沈み込んでいる。


「完全には封じてない」


 セナが言う。


「わざと?」


「ああ」


 俺は剣から視線を離さない。


「完全に閉じれば、余計に歪む」

「“在る”ことだけを許してる」


 エリシアが、わずかに眉をひそめた。


「それって……」


「観測対象だ」


 歩み寄り、剣の前に立つ。


 触れなくても分かる。

 剣は、沈黙している――いや。


 沈黙させられている。


『……』


 声は聞こえない。

 だが、確かに“意識”はある。


(困惑してるな)


 あの剣は、選ぶ存在だった。

 測り、裁き、進めるか否かを決める側。


 それが今は、

 選ばれず、否定され、動けない。


 理解できるはずがない。


「悠人」


 エリシアが、少しだけ不安そうに聞く。


「本当に、これでいいの?」


「いい」


 即答だった。


「少なくとも、今はな」


 この剣は強すぎる。

 だが、それ以上に――思想が危うい。


 進む価値があるかどうかを、

 一つの基準で決める存在。


 それは、

 世界を守る剣じゃない。


 世界を選別するための意志だ。


『……理解できない』


 かすれた声が、微かに響いた。


 昨夜よりも、ずっと弱い。


『なぜだ……』

『基準に届いていたはずだ』


「ああ、そうかもな」


 俺は、否定しない。


「だからこそ、否定した」


 剣が、わずかに震える。


『選ばれることを、拒むのか』


「ああ」


 静かに、だがはっきり言う。


「俺は、選ばれない側でいい」


 沈黙。


 剣は、それ以上言葉を返さなかった。



 簡易封印は、すでに完了している。


 触れられない。

 抜けない。

 だが、破壊もされない。


 誰かが“余計なこと”をしない限り、

 この剣は、ただの置物だ。


 ――少なくとも、

 今の世界の常識では。


「終わり?」


 セナが肩をすくめる。


「拍子抜けね」


「だろ」


 俺は踵を返す。


「でも、これでいい」


 エリシアは、剣を一度だけ振り返った。


 その視線の先で――

 剣は、沈黙したままだった。



 その夜。


 本来なら、誰もいないはずの広場に、

 一つの影が立っていた。


 フードを深く被り、

 剣を、見下ろしている。


「……選ばれなかった、か」


 小さな声。


 だが、そこには落胆よりも――

 歪んだ期待が滲んでいた。


「なら」


 影は、笑う。


「選ばれる条件を、満たせばいいだけだ」


 剣は、応えない。


 それでも。


 封印の奥で、

 理解できないまま、理解しようとする“意思”だけが、わずかに動いた。


 物語は、終わったように見えて。


 実際には、

 ここから静かに、狂い始めていた。


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