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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第2章 所有しない剣

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第11話 選定と否定

 その夜、俺たちは一度拠点に戻った。


 剣は、あの広場に残されたままだ。

 動かず、語らず、ただそこに“在る”。


 それが、逆に気にかかった。


「……放っておいて、いいの?」


 応接室で、エリシアが言った。


 彼女は窓の外――街の方角を見ている。

 剣の気配が、まだ消えていないことを感じ取っているのだろう。


「よくないわよね」


 セナが即答する。


「さっきのは挨拶。次は“本番”」


「だろうな」


 俺は立ち上がった。


「だから行く」


 エリシアが、こちらを見る。


「今度は、話し合い?」


「いや」


 俺は首を振る。


「否定する」



 広場の空気は、変わっていなかった。


 人はいる。

 だが、やはり中心には誰も近づかない。


 誰も気づいていないようで、

 それでも、無意識に避けている。


 剣は、同じ場所に突き立っていた。

 まるで、俺たちが戻ってくることを知っていたかのように。


『来たか』


 低い声が、直接頭に響く。


『考えは変わったか、基準に届く者』


「いいや」


 俺は歩みを止めない。


「確認しに来ただけだ」


『何を』


「お前の“選定”が、どこまで本物かを」


 一瞬。

 剣の周囲の空気が、明確に張り詰めた。


『ほう』


 楽しげですらある声音。


『ならば見せよう』

『世界を進めるに値する力を』


 次の瞬間。


 剣が、石畳から“抜けた”。


 誰かに取られたわけではない。

 自ら、浮かび上がった。


 魔力が、一直線に走る。


「――来る!」


 エリシアの声と同時に、俺は前に出た。


 速い。

 思考より先に、剣が“結果”を描いてくる。


(なるほど)


 だから、勝っている目をしていた。


 振るわれる前に、

 もう勝敗が決まっていると信じている。


 剣閃。


 空気が裂ける。


 俺は、最小限の動きでそれを防いだ。


 反撃はしない。


 剣が、わずかに沈黙する。


『……反撃しないのか』


「必要ない」


 もう一度、剣が走る。


 今度は、軌道が変わる。

 “修正”だ。


(思考速度も高いな)


 だが――


 それでも、足りない。


 俺は半歩踏み込み、剣の間合いに入った。


 その瞬間。

 剣の魔力が、大きく揺れる。


『なぜだ』


 声に、初めて戸惑いが混じった。


『基準には届いている』

『選ばれるべきだ』


「そこだ」


 俺は、剣の切っ先を二本の指で止めた。


 世界が、静止したように感じられる。


「お前は“選ぶ側”のつもりでいる」


『違うのか』


「違う」


 俺は、はっきりと言った。


「お前は測っているだけだ」

「進めるかどうかを判断しているつもりで、世界を止めている」


 剣が、言葉を失う。


「可能性を切り捨てる存在は、ここでは不要だ」


 力を込める。


 剣が、わずかに軋んだ。


『……否定、するのか』


「ああ」


 迷いはない。


「俺は、お前を使わない」


 短い沈黙。


 やがて、剣が低く響かせた。


『理解……できない』


「だろうな」


「だから――」


 俺は、そのまま剣を地面に押し戻した。


 魔力が、封じられていく。


 完全ではない。

 だが、今は十分だ。


『待て』


 初めて、剣が“止める”言葉を発した。


『私は、まだ――』


「まだ何もしていない」


 俺は言葉を遮る。


「それが答えだ」


 剣の光が、ゆっくりと沈む。


 再び、ただの剣のように。

 だが、その奥には、消えない意思が残っていた。



 夜が、元に戻る。


 人の流れが、少しずつ中心へ近づいていく。


「……終わったの?」


 エリシアが、小さく聞いた。


「いいや」


 俺は首を振る。


「一旦、切っただけだ」


 セナが、苦笑する。


「あれ……アーティファクトって呼んでいいのかも怪しいわね」

「性能も意思も、アーティファクトの枠を越えてる」

「しかもそれを“不要”って」


「だから、厄介なんだ」


 剣は、折れていない。

 砕いてもいない。


 封じただけだ。


(あれは――学習する)


 選ばれなかったという事実を、

 理解できないまま、理解しようとする。


 きっと、誰かが気づく。

 あの剣に。


 そして――


 今度は、

 “選ばれたい”者の手に渡る。


 その時。

 この話は、続きを始める。


 ――まだ、終わっていない。

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