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最強なのに表に出る気がない俺が、裏から世界を牛耳るギルドを作った話  作者: 月詠
第2章 所有しない剣

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第10話 剣は、選ぶ

 酒場を出てから、しばらく誰も口を開かなかった。


 夜のセントラルは静かだ。

 昼間の喧騒が嘘のように、人の気配が引いている。


「……あの男」


 エリシアが、ぽつりと言った。


「嘘はついていないわね」


「ああ」


 セナも短く頷く。


「盛ってはいるけど、見たもの自体は本物」


 俺は前を見たまま歩く。


 気配は、もう掴んでいた。


 ――剣だ。


 中央区から外れた、使われなくなった広場。

 かつては噴水だったらしい石造りの構造物が、今は乾いたまま残されている。


 人はいる。

 通りには往来があり、話し声も絶えない。


 だが、誰も“そこにある”ことに気づいていなかった。


 それでも――

 人の流れだけが、無意識に中心を避けるように歪んでいる。


 視線は逸れ、足取りは鈍り、

 誰一人として理由を考えないまま、近づこうとしない。


 そこには、

 「見えない」のではなく、

**「選ばれていない」**という空白だけがあった。


(なるほど)


 噴水跡の中央。

 石畳を割るようにして――一本の剣が、突き立っていた。


 鞘はない。

 装飾も、過剰ではない。


 だが。


(……嫌な存在感だ)


 魔力を放っているわけじゃない。

 威圧しているわけでもない。


 それなのに、周囲の空気だけが、微妙に歪んでいる。


 エリシアが、無意識に一歩引いた。


「……これが?」


「ああ」


 俺は短く答え、剣から視線を離さない。


「噂の“剣”だ」


 近づくほどに、違和感が増す。

 魔力の流れが――合わない。


 呪具のような悪意も感じない。


(アーティファクトか……もしくは……)


 そこまで考えたところで。


『――やっと来たか』


 声がした。


 低く、落ち着いた声。

 だが、確かに剣の方から聞こえた。


 エリシアが息を呑む。

 セナは即座に半歩前に出た。


「……喋る剣、ね」


『久しぶりだな、円卓の第1席』


 剣は、確信をもってそう呼んだ。


「名を呼ばれる覚えはないんだが」


『呼ばれずとも分かる』


 剣は、淡々と言葉を重ねる。


『この街に入ってきた瞬間から、見ていた』

『魔力、視線、立ち位置……基準に届く者のそれだ』


 基準。


 その言葉に、わずかに空気が張り詰める。


「基準ってのは?」


 俺は、あえて軽く聞いた。


『語る必要はない』


 剣は即答する。


『届く者には分かる』

『届かぬ者には、理解できない』


 その瞬間。

 剣の周囲の魔力が、ほんの一瞬だけ――“揺れた”。


 攻撃ではない。

 威嚇でもない。


 ――確認だ。


(試してきてるな)


「なら聞こう」


 俺は一歩、前に出る。


「お前は何だ」


 剣は、少しだけ間を置いた。


『私は、選定の剣』

『役割は一つだ』


「何を?」


『世界が進むに値するかを、測る』


 エリシアが、思わず声を上げかける。

 だが、何も言えなかった。


 その言葉が、冗談に聞こえなかったからだ。


「……悪いが」


 俺は、静かに言った。


「その役割はここじゃ不要だ」


 一瞬。

 本当に一瞬だけ――剣の気配が変わる。


 怒りではない。

 失望でもない。


 興味だ。


『ほう』


 剣が、低く響かせる。


『拒むか』

『基準に届いてなお、選ばぬと?』


「ああ」


 迷いはなかった。


「俺は、お前を必要としない」


 沈黙。


 広場のざわめきが、遠く感じられる。


『……そうか』


 剣は、ゆっくりと言った。


『ならば、理解した』


『今日は、ここまででいい』


 その言葉と同時に、

 剣の気配が、再び“何事もなかったかのように”収まる。


 だが――


(終わってないな)


 確信があった。


「悠人……」


 エリシアが、静かに呼ぶ。


「ああ」


 俺は剣から目を離さず、答えた。


「これは、挨拶だ」


 試し。

 観測。

 そして――選別。


 剣は、持ち主を選ぶ。


 だが同時に、

 選ばれなかった者の存在も、確かめている。


 この剣は、まだ何もしていない。


 それが、一番厄介だった。


 ――エクスカリバー。


 剣がその名を名乗るのは、

 もう少し先の話になる。


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