求婚されましたが、秒で断ります。
「喜ぶがいい!俺様がお前を娶ってやろう!」
「は?普通に嫌ですけど?」
間髪入れずに断ると、目の前の男性達は驚きで固まった。
いや、何故受け入れると思った?
「どう考えてもあり得ないでしょ。貴方と結婚するのなら、お父様よりもお歳の召した方の後妻の方が百倍マシですわよ。ねぇ、皆さん」
一緒にいた友人達を振り返ると、皆んな頷いてくれる。
そりゃそうだ。何故にこんな地雷野郎共と関わらないといけないのか。
平民出身の下級貴族の娘に入れ上げ、自らの婚約者を蔑ろにした挙句に婚約破棄し、下級貴族の娘にもフられるという三流物語のような末路。
それなのに、自分には未だ価値があると信じているらしい。
いや〜普通にないわー。
元婚約者からも総スカンを喰らい、婚約者がいない令嬢に声をかけまくっているという噂は聞いていたが、コレはない。
下級貴族の娘の取り巻きは、このアホな第三王子殿下を筆頭に上位貴族の子息ばかりだった。
そりゃ婚約破棄された挙句にフられたんだから、焦るだろうけどさ〜。
勝手に婚約者にされても困る。
「何故俺様が断られるのだ!」
え?自覚ないのこの人。学園でこんな有名になってるのに?
「今じゃ隣国に届く勢いで有名になっているのに、まさか知らないのかしら?」
え?普通にコイツら馬鹿じゃね?
「だってねぇ⋯⋯明らかに不幸まっしぐらな道を、誰が進みたいと思うんですか」
「政略といえども限界はありますわよね」
「仲良くもなれる気もいたしません」
「普通に考えてもクズは無理です」
「気持ち悪い。もげればいいのに⋯⋯」
あらあら、皆さんなかなか辛辣ね〜。
「やっぱり人間外見より中身ですわよね」
「外見では補いきれない残念中身はちょっと無理ですわよね」
「傍に寄られるのも嫌ですわ」
「自分に価値がまだあると思ってること自体気持ち悪いです」
「全ての女性の敵」
日々繰り返された元平民女へのアプローチは、下らないお芝居みたいで、周囲の女子は誰も相手にしなかった。
つーか、女の方が現実見てるっつーの。
何かっていうと「平民は〜」を免罪符にしていたけれど、一番おかしかったのは元平民女だ。
態とらしいあからさまな演技は、この学園の女子全員を敵に回した。
「これぐらい平民では当たり前です〜」と言われる度に「じゃあ平民に戻れ!」と、何度思ったことか⋯⋯。
平民主張するくせに、位の高い男を狙いまくるとか⋯⋯もう、過剰サービスの酒場の給仕でもした方がいいと思う。
まぁ⋯⋯その元平民女も、一番スペックの高い男をロックオンした途端、その男に手酷くフられてたけどね!
そりゃそうだ。
底辺でも貴族になって半年以上経つのに、何も学んでいないのだから。
せめて挨拶の仕方くらい覚えろっつーの!
何度言っても同じ事を繰り返すのなら、学びがないと見做されるのは当然だ。
社交会でお得意の「皆んなで仲良くしましょうよ」をされたら、たまったものじゃない。
そんな恥ずかしい物体を連れて歩くなんて、一種の苦行というか、戦争でも起こす気かと疑われる。
甘やかすばかりで学ばせない彼らの評判だって、今や底辺だ。
そんな奴に国を回せる訳がない。
学生である私達でさえそう思うのに、大人が分からぬ筈がない。
フリーズしている脳内お花畑の男達を捨て置いて、私達はティーラウンジへと足を運んだ。
「今日は厄日だわ〜」
「ホント最悪」
それぞれが注文をしながら、さっきの出来事を反芻する。
「でも、何であんなに自信満々なんですかね?」
「ほら、前までは一応人気の方々でしたから」
「夢に夢見て、恋に恋するお年頃を拗らせた結果でしょうかね?」
「痛いだけの阿呆」
皆さん言いますね。
まぁ、間違ってないけど⋯⋯。
苦笑いを浮かべていると、紅茶を淹れてくれる給仕が、静かにお菓子とお茶を皆さんに配ります。
「そういえば皆さん婚約は整いまして?」
紅茶に大好きなジャムを沈め、皆の顔を見回す。
「もう少しで決まりそうです」
「私は決まりました」
「あとは教会に出すだけです」
「整いました」
皆んなの返答に私はニッコリ笑う。
「アレらから逃れられそうで良かったわ」
「というか、もう年頃の女子で婚約していないのって、殆んどいないのでは?」
「下位貴族なら多少いるかも?」
「あとは病弱?」
「それ以前の問題って人も」
問題が明るみになった際、令嬢を持つ親は慌てて婚約者を探し充てがったのだ。
自分の娘が不幸になる選択などしたくないし、一分の得にもならない。
「他国へ行くのが私含め三人⋯⋯なんだか淋しいわね」
「結婚しても、皆んなに会いたいです」
「絶対お手紙下さいませね!」
「わたしはこの国に残りますから、いつでも帰って来て下さいませ」
「わたしも待ってますから」
何だかんだと楽しかった学園生活。
素敵な友人達にも恵まれた。
きっと今日のアレコレも、いつか笑い話になるだろう。
「学生時代の黒歴史っていっても、限度がありますわよね〜」
こんなの馬鹿らしい出来事なんて、歴史に残したくはないだろうが、学園の歴史としては永遠に語り継がれるかもしれない。
ああいった愚か者を出さないためにも。
なんていうか⋯⋯。
「あぁ、珍獣ハンターだ!」
私の呟きに皆んなが笑う。
「やだ、ピッタリ!」
きゃらきゃらと笑う可愛らしい彼女達とのお別れもあと少し。
それまでは楽しく素敵な思い出をたくさん作りましょう。
普通そうだよねー(•‿•)的な⋯⋯
25年11月25日
日間ローファンタジー短編1位になりました!
ありがとうござます(人•͈ᴗ•͈)




