2章第27話:『喪失』
少年院の事件から一週間が経ち、しかし依然日立一夏太は寝たきりであった。
会議室でその事件についての話し合いが行われた。
「で、A君と石狩の意見としては今回の日立一夏太の事は代理人に能力を授かったというイレギュラーな出来事のためダークナイツの観察処分にしたいと」
会議は進み、一夏太の処遇についての話がされている。
「ああ、そうだ。だから最初に計画されていた死刑処分を取り消したい」
「ふむ、だが言っている意味はわかっているのかい?日立一夏太に殺された人々は大勢いる、その被害者の無念は?遺族の悲しみは?」
矢部が鋭い質問を問いかける。
「それについてはもう一夏太と話し合った、だからそれは一夏太が起きてから話そう」
「そうかい、まあでも、A君が自分なりに決着をつけられたようでよかったよ」
「なんだよ、気持ち悪い」
「というか成神はどうするの?あいつ何か企んでそうだったじゃない、警戒した方がいいんじゃない?」
茜が成神を話題に上がる。
「それについては諜報班に捜査を頼もうじゃないか、顔と名前はわかったのだろう?」
「ええ、それに私はあいつと戦ってるからある程度の戦闘データならあるわ」
「まあでもそれは代理人側も同じ事だ、警戒するに越したことはないね」
「そうね、じゃあ今日はこのぐらいにしようかしら、みんなおつかれ」
茜が会議を締めくくる。
その時にAの端末に連絡が届く。
「ん?えっーと、何何。っ!日立一夏太の意識の回復が確認された、今すぐ行こう」
「ちょっと待ちたまえ、A君」
一夏太のところは行こうとするAを矢部が静止する。
「なんだよ、マッドサイエンティスト」
「私も行こう、能力を奪われた貴重なサンプルだ。この目で見ようじゃないか」
「好きにしろ」
そうしてAと矢部はダークナイツが管理する病棟へ向かった。
一夏太のいる病室へ行くともう一夏太は起き上がり、看護師と話していた。
「おい!一夏太、やっと目覚ましたのかよ!」
思わずAが一夏太へ駆け寄り話しかける。
「あっ、ちょっとAさん、今は」
看護師がはやるAに気まずそうにする。
「?まあ、いいや。それより体調大丈夫かよ」
Aが一夏太に体調を尋ねる。
しかしその反応は鈍く、困っているようだった。
「どうしたんだよ、黙って」
一夏太が戸惑いながら口を開く。
「えっと、その、誰、ですか?」
「…………………………………は?」
その言葉は衝撃的でAの思考を停止させるには十分だった。
「すみません、起きてからずっとこの調子で。記憶喪失、みたいなんです」
戸惑うAに看護師が説明する。
「記憶、喪、失……?なんで、」
「ふむ、A君。日立一夏太は合成と分解という能力を持つ代理人に能力を奪われたのだろう?」
「あ、ああ。そうだ、でもなんで、まさか成神の能力か!?」
「いや、おそらく違う。これは私の仮説だが能力は頭、特に脳の部分と深く繋がっていると思われる。だから能力を奪われた際に脳に傷がついて記憶が欠損してしまったのだろう」
「なら、どうすれば……」
「回復は難しいだろう、なにせこればかりは能力ではなく日立一夏太の体の問題だ」
「そんな……、せっかく罪を償う方法を見つけられたのに」
「えと、そのあなた達は俺の知り合い、なんですか?」
記憶を失った一夏太が問いかける。
「あ、ああ。そうだ、俺は匿名A。お前の小学校からの幼馴染だ、思い出せるか?」
「……すみません、思い出せません」
「そう、か」
一旦A達は病室を出た。
「まさか一夏太が記憶喪失になるなんて……!」
Aが壁に乱雑な殴りをする。
「また会議で話し合わなければいけなくなってしまったね、流石に記憶を失い右も左もわからない少年に彼の罪は重すぎる」
「そう、だな。みんなに伝えよう」
こうして本来は喜ばしいことが最悪の形となってしまった。




