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らけんばるらりでゅーさ・かるさんべく・たいけめ  作者: chiroru
灰の国 バルアード連合国

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第5章 煙を裂き、火花駆ける

灰色の夕暮れ。

廃材置き場の奥は昼間よりも静かだった。

ヴァルドは山のように積まれた鉄屑を見上げ、無言で歩き出した。


「……本当に、ここにあるの?」

「この辺りで倒れていたなら、ここにあるはずだ。」


アルスとヴァルドは失くしてしまった剣を探していた。

アルスは錆びた鉄板をどけながら言った。


「見つかるといいね。」

「見つけねばならん。あれは——」


ヴァルドは言葉を止めた。

一瞬だけ、琥珀色の瞳がわずかに揺れる。


「俺の命の一部だ。」


その声に、アルスは何も言えなくなった。

鉄の匂いが強い風が吹く。

機械の残骸が軋んだ。


「……ないか。」

「今日の朝、鉄くずと一緒に回収されたのかも。だったら工場に運ばれたと思う。」


ヴァルドが顔を上げた。


「工場?」

「あの大きい煙突のとこ。」

「……行くぞ。」

「まさか、今から?」


ヴァルドは何も言わない。

アルスはため息をついた。


「じゃあ、僕も行く。」

「ついてくるなら静かにしろ。」



*********************



工場街の灯りが煤けた空に滲んでいる。

鉄を溶かす音が遠くで鳴っていた。


「こっちが裏口。」


アルスが囁く。

ヴァルドは無言で鍵の隙間に細い棒を差し込み、音もなく扉を開けた。

中は薄暗く熱気が残っている。

巨大な炉がうなり、床は黒い粉で覆われていた。


「鉄の匂いしかしないね……。」

「この国はどこも同じ匂いだ。」


二人は鉄屑の山をひとつひとつ確認していった。

アルスの指が何か硬いものに触れた。


「……これ、じゃない?」


鉄くずの隙間に、黒い鞘が見えた。

ヴァルドが駆け寄り、手を伸ばす。

鞘の中の刃が工場の灯に反射して鈍く光った。


「……見つけた。」


彼はゆっくりと剣を抜いた。

刃先は欠け、かすかに焦げていた。


「これだ」


その声はどこか穏やかだった。


「……感謝し——」


その時、背後から声がした。


「おい、誰だ!」


灯りが差し、警備員の影が近づいてくる。

ヴァルドがアルスの肩を引く。


「下がれ。」

「まって、どうす——」


言い終わる前に、ヴァルドは鉄屑の山から大剣を引き抜いた。

黒鉄の刃が炉の赤光を受けて鈍く光る。

そのまま片手で剣を担ぎ、

もう一方の腕でアルスの体を脇に抱え上げた。


「えっ、ちょ、待って——!?」

「喋るな。落ちるぞ。」


次の瞬間、地を蹴った。

床がきしみ、鉄粉が舞い上がる。


「そっちだ! 止まれ!」


警備員の声が追いすがる。

だがヴァルドは速かった。

巨体とは思えない速度で通路を風のように駆け抜ける。

アルスは驚きと恐怖で声も出せず、

ただ胸の奥で鼓動が跳ねていた。

大剣が壁に触れるたび、火花が散る。

溶鉱炉の熱が、風を裂くように後ろへ流れていく。

ヴァルドは扉を蹴り開けた。

夜風が一気に流れ込む。

鉄と火の匂いが冷たい空気に押し流された。


「掴まっていろ。」


アルスは言われるまま、ヴァルドの服を掴んだ。

赤い煙の中を、二人は駆けた。

工場の灯りが遠ざかる。

ベルの音と怒号が混じり、灰色の街が震える。

それでもヴァルドは止まらなかった。

片手で大剣を担ぎ、片手で少年を抱えたまま、

まるで風そのもののように走り抜けていく。

アルスは息を切らしながら、

それでも笑っていた。


「ねぇ……すごいよ!!」


ヴァルドは答えなかった。

ただ、夜を裂くように走り続けた。

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