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らけんばるらりでゅーさ・かるさんぽく・たいげめ  作者: chiroru
学園の国 ルクテリオ

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第9章 証明の直後に

午後の回廊が妙に騒がしかった。


人だかり。


「……また?」


ニーナが小さく言う。

アルスの心臓が嫌な感じに跳ねる。


「新しい被害者?」


ユンが眉を寄せる。

三人は急いで人垣をかき分けた。

そして前に出て──止まる。


「……え?」


広場の中央。


そこに立っていたのはセオ。

その前に立たされている男子生徒。


顔色は青い。

膝がわずかに震え、なにかに怯えている、

胸元には紙が貼られていた。


《臨界演術検証協力中 報酬あり》


ニーナが小声で言う。


「なにあれ」


近くの生徒が答える。


「実験だって。報酬出るらしいよ」


中央の男子が震える声で言う。


「き、聞いてねえぞ!こんなに人が見てるなんて」


セオは淡々としている。


「観測者は多い方がデータは正確になる」

「あぁん?!」


男子は悪態をついているが泣きそうだった。

研究生の一人が言う。


「第一段階、電撃」


バチッ。

小さな電流が走る。


「うぉ!」


男子は変な声を上げる。


その瞬間、背中の中心から光が広がる。


球状の結界。


電撃が弾かれ、空中で消える。


どよめき。


男子は結界の中で自分の体を確認する。


「……いぃいった…くない」

「理論通りだ」


セオはメモを取る。


「次、炎」

「おい!ちょっと待て!まだ心の準備が!」


足元に火が走る。


「熱っ、熱っ……あ、熱くない!」


結界が炎を遮断している。


男子は結界の内側でぴょんぴょん跳ねている。


「………」


ユンは興味深そうにしているが半分引いている。



「次、物理衝撃」

「お、おい! 演術だけじゃねぇのかよ!物理ってなんだ!?」


鈍器を持った生徒が近づく。

鈍い衝撃。

結界が一瞬歪む。


男子は結界の内側で顔の前に手をやり届くはずのない攻撃を防ぐ。


「はぁはぁ」

「動くな」


セオが平然と言う。


「無理だろ!」


周囲から小さな笑いが漏れる。

研究生が小瓶を掲げる。


「酸」


「はぁ?!きいてねぇぞ!」


「契約書第三条に明記」


「細かい字なんて読んでねぇよ!」


小瓶の中身が投げられる。

透明な液体。

結界が即座に発動。

酸は表面で弾かれ、蒸発する。


男子は目をぎゅっと閉じている。


「……お?」


ゆっくり目を開ける。


「溶けてない!」


観客から拍手が起こる。


男子は震えながらも両手を上げた。


「俺、生きてるぜ!!」


広場に笑いが広がる。


セオは淡々と記録を続ける。


「反応時間安定。防御出力正常」


アルスは苦笑い。

ニーナが小さく言う。


「……これ、すごいけど」


ユンが低く続ける。


「普通はやらないな」


アルスはぽつりと呟く。


「さすが研究者って感じ」


男子は広場の端に戻される。

報酬袋を受け取り、まだ少し震えている。


アルスはセオを見る。

セオは笑っていない。


ただ、観測している。


その目が一瞬だけアルスを捉える。


読めない。


広場の空気は笑いに戻った。


でもアルスの胸の奥には、別の感覚が残っていた。


(守られてる。でも──)


何かがやけに引っかかった。


─────────────


広場の空気はまだ笑いに包まれていた。


「俺、生還ー!!」


被験者の男子が報酬袋を掲げている。その声にまた笑いが起きる。


ニーナがくすくす笑う。


「でも無事でよかったわね」


ユンは腕を組む。


「臨界演術は正常だな」


アルスはセオの背中を見つめていた。


その時だった。


人混みの外側から、息を切らした声がする。


「ニーナ!」


振り向くと、リコが駆けてくる。

顔色が悪い。


「……どうしたの?」


リコは一度言葉を飲み込んだ。


「また……出た」


空気が一瞬で変わる。


「え?」


ニーナの声がかすれる。


「三人目……」


広場の笑い声が急に遠くなる。

ユンが真っ先に聞く。


「どこだ」


「男子寮……」


アルスの喉が乾く。


「……また、いじめられてた子?」


リコは首を横に振った。


「違う」


それだけで、全員の顔色が変わる。


「……違う?」

「明るい子だったって。友達も多かったって」


アルスがぽかんとする。


「え……?」


リコの声が揺れる。


「いじめられてたわけじゃないって」


沈黙。


さっきまで「臨界演術は完璧だ」と確認したばかりだ。


死なないはずの場所。

防がれるはずの世界。


ユンが低く言う。


「ありえない……」


でも今度はその言葉に力がない。

ニーナがゆっくり言う。


「条件が違う」


アルスは考える。


一人目。

いじめられていた。男子。


二人目。

同じく、いじめられていた。女子。


三人目。

男子だけどいじめられてはいない。


「……じゃあ」


ニーナが震える声で言う。


「共通点、なくなった?」


ユンはすぐに否定しない。

それが逆に怖い。

アルスの頭の中で、さっきの実験がよぎる。


電撃。

炎。

酸。

全部、防がれた。


でも。


恐怖は防がれなかった。


被験者の手は震えていた。


(心……?)


ふと、ニーナの講義がよぎる。


並列処理。

精神的処理能力。


“調子が悪い日もある”


アルスは顔を上げる。


「最近の被害者の日常について調べよう」


リコが傾げる。


「え?でも条件は前回と違うしそこら辺は関係ないんじゃ…」


ユンの目が細くなる。


「……なにかわかったのか」

「え?!」


アルスは確信した訳じゃない。


「いじめられてなかったとしても体の傷や精神状態に共通点があったならそこに臨界演術の発動を回避する弱点があるんじゃない?」


広場の笑い声がまた聞こえてくる。


誰もまだ知らない。

この瞬間にも、学園は普通に動いている。


守られているはずの場所で。


アルスはもう一度、セオを見る。


研究。

実験。

観測。


守られている世界。


でも。


もし“守る力”が働かなかったとしたら。


それは――


外から壊されたんじゃない。


内側から、崩れたんだ。


アルスの背中に、うすく汗が滲む。


笑っていた広場が急に遠く感じた。


三人目。


条件が変わった。


それは──

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