第4章 こんにちは、はじめまして
第4章
食堂は思っていたよりもずっと賑やかだった。
皿が触れ合う音。
笑い声。
どこかでパンが焼ける匂い。
「……人、多いね」
アルスはトレーを持ったまま、きょろきょろと周囲を見る。
ニーナは楽しそうだ。
「こういうところ、嫌いじゃないわ」
二人は空いている長机を見つけ、腰を下ろした。
アルスの皿には焼いた肉と豆の煮込み、それに硬めのパン。
ニーナはスープと野菜、それに果物。
「……そんなので足りるの?」
「食堂は何時でも空いてるのよ。お腹すいたらまた来るの」
ニーナは平然としている。
アルスがパンをちぎった、その時。
「……あ」
控えめな声がした。
顔を上げるとそこにいたのはリコだった。
トレーを胸の前で抱えるように持ち、
少しだけ遠慮がちに立っている。
「一緒……いい?」
「もちろん!」
ニーナが即答する。
「ね、アルス」
「あ、うん。」
リコはほっとしたように頷き、
二人の向かいに腰を下ろした。
「昨日は、あんまり話せなかったから……」
「ね」
ニーナはにこっと笑う。
「改めて紹介するね」
リコの方を向く。
「こっちがアルス、一緒に入ったの」
「……よろしく」
アルスは少しだけ照れたように言った。
その時だった。
「リコ、ここにいた!」
元気な声が食堂に響く。
振り返ると、
二人組がこちらに向かって歩いてくる。
一人はリコと同じくらいの年の少年。
黒縁の眼鏡をかけ、落ち着いた雰囲気で
歩き方もどこか丁寧だ。
もう一人はその半分くらいの背丈の女の子。
髪を跳ねさせるように走り、
とにかく元気がいい。
「もう、どこ行ってたの!先に座っちゃうとこだったよ!」
リコは慌てて立ち上がる。
「あ、ごめん……えっと……」
一瞬だけ迷ってからリコはアルスとニーナを見る。
「この人たち……昨日から来たの。アルス君と、ニーナ」
それから、今度は二人を指す。
「こっちは……ユン」
眼鏡の少年――ユンが、静かに頭を下げた。
「はじめまして。急に騒がしくなって、すまない。こっちが─」
隣の女の子が元気よく割り込む。
「私、リアナ!」
ニーナが思わず笑う。
「ニーナよ。よろしく、リアナ」
「よろしくー!」
アルスは少し戸惑いながらも言った。
「……アルスです」
ユンは興味深そうに二人を見る。
「この時期に入学とは珍しいな。もう講義は受けたか?」
「流れでね」
ニーナが肩をすくめる。
「でも……すごかった。頭が追いつかないくらい」
ユンは小さく笑った。
「みんな最初はそうさ。ここはそういう場所だから」
リアナはスープを覗き込みながら言った。
「でも楽しいよ!分かんなくても!」
アルスはその言葉に少し救われた気がした。
パンを一口かじる。
知らない場所。
知らない人。
でも――
こうして話しているうちに、
学園の空気が、少しずつ身近になっていく。
「……ねぇ」
アルスがぽつりと言う。
「ここ、思ってたより居心地いいね」
ニーナは笑った。
リコも小さく頷く。
「……うん」
食堂のざわめきの中でアルスは思った。
この学園での時間はまだ始まったばかりだ。
そして――
この四人の出会いが
やがて小さな事件へとつながっていくことを、
まだ誰も知らなかった。




