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らけんばるらりでゅーさ・かるさんぽく・たいげめ  作者: chiroru
学園の国 ルクテリオ

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第1章 仕組みをくぐった先

ルグーナから続く道を進み、国境を越えた途端、景色が変わった。


道は広く、石畳は均され、視界の先まで遮るものがない。

灰の国のような煙もなく、商人の国のような喧騒もない。


「うわ……なにここ!」


最初に声を上げたのはニーナだった。

駆け出しそうになるのをかろうじて抑えている。


「ここは…広場?」


アルスも思わず周囲を見回す。

その奥、丘の上にそれはあった。


巨大な石造りの建物。

城みたいに高い壁と塔。

でも、いかにも戦うため、という感じがしない。


「見て! あれ!」


ニーナが指をさす。


「城だ!」

「行ってみようよ!」

「うん。門も開いてるし」


2人は駆け寄る。それをヴァルドとジークな離れて眺める。


「なんだろ。昔の王様の城?今のものかな」

「中、見ていいんじゃない?」


完全に観光気分だった。


ちょうどその時、外門の脇に立つ警備兼受付は

別の子どもに話しかけられて背を向けていた。


本来なら、ここで止められるはずだった。

――「入らないほうがいい」と。


だが、誰も見ていなかった。


二人はそのまま門をくぐった。


────────────


中は外よりさらにすごかった。


「広っ……!」


ニーナが声を上げる。


中庭。

回廊。

上を見上げれば、塔と塔をつなぐ通路。


あちこちを子供や若い人達が歩いている。

年上も、年下も、同じような服も、そうでない服も。


「人いっぱいいる!」


アルスは首を傾げたが、深くは考えなかった。

ここまで来ると、もう楽しい。


石の壁に刻まれた紋様。

意味の分からない印。

構造そのものが、アルスの好奇心を刺激する。


「ねえニーナ、これさ……」

「うん?」

「作った人、絶対変だよ」

「褒めてるでしょそれ!」


二人は笑いながら、内門の近くまで歩いていく。

ひとしきり見回したあと、アルスが言った。


「よし、そろそろ戻ろう。ヴァルドたち待ってるし」


外門へ向かって、足を踏み出す。


――その瞬間。


「痛っ」


アルスのつま先が、何もないところで止まった。


もう一歩。

今度ははっきりとした抵抗。


「ちょ、なによこれ?」


ニーナも同じように弾かれる。


見えない。

触れないはずの空気が、確かにそこにある。


「壁……?」

「うそでしょ!?」


外から、声が飛んだ。


「アルス!」

「ニーナ!」


ヴァルドとジークが駆け寄ってくる。

アルスは必死に手を伸ばしたが、指先は透明な何かに阻まれた。


その背後から困った声がした。


「……あー……入ってしまいましたか」


振り返ると、さっきまで別の子に対応していた受付が立っていた。


「出られませんよ」


あまりにも淡々と言われて、二人は固まる。


「え、ちょっと待ってください!」

「通るだけだったんです!」


受付は申し訳なさそうに頭を下げた。


「本来なら、門で忠告する決まりなんですが……」

「どうにかできませんか?」


アルスが頼み込む。

受付は首を横に振った。


「できません。私にはどうにも…」


その言葉でようやく二人は察した。


これはまずい。



「ここに一度入った以上、外へは出られないんです」


外で聞いていたジークが声を荒げる。


「どういう意味だ!ここは牢獄かなんかか!」


受付は首を横に振った。


「ここはルクテリオ学園。ここからは出れない。これは規則だとかルールだとかではないのです」

「なら責任者に会わせて下さい。」


ニーナの声はいつになく強かった。

受付は一瞬だけ迷い、やがて頷いた。


「分かりました。学園長のところへ案内します」


ヴァルドはアルス達に警告した。


「…気をつけろよ」

「うん」


─────────────


塔の内部は外よりも静かだった。


螺旋階段を上る間、すれ違う生徒たちは皆、当たり前の顔をしている。

泣いている子も、騒いでいる子もいない。


「……なんかさ」


小声で、ニーナが言った。


「ここ、思ったよりはいい所っぽいわね」


アルスは答えられなかった。


学園長室は塔の中腹にあった。

重厚な扉を開けると、そこは思っていたよりずっと穏やかな空間だった。


装飾は控えめで、必要なものだけが整然と並んでいる。

机の向こうに立っていた女性は背筋を伸ばし、二人を真っ直ぐに見た。


「私はエレオノール・ローゼンフェルト。

ここの学園長です。」


声は低く、無駄がない。

優しいと言うより、規律の人の声だった。


エレオノール・ローゼンフェルトは言う。


「……事情は聞いています。

しかし、あなたたちは自分の意思で門を越えましたね」


「それは……」


アルスは言葉に詰まる。


「警告出来なかったのはこちらの不手際です」


彼女はきっぱりと言った。


「ですが、入ったという事実は変わりません」


逃げ道を探す余地のない言い方だった。


「でも私たちは旅を続けなきゃ行けないんです。」


ニーナがまっすぐに言った。


ローゼンフェルトは一瞬だけ目を伏せ、すぐに視線を戻す。


「できません」


即答だった。


「ここはルクテリオ。

一度入った者を途中で外へ出す仕組みはありません」


アルスは思わず拳を握る。


「規則、ですか」

「規則ではないのです」


訂正は冷静だった。


「仕組みです」


ローゼンフェルトは机に手を置く。


「ルクテリオには三つの縛りがあります」


教師以外の大人は入れない。

入った者は卒業か長期休暇まで出られない。

学園内で致命傷を負わない。


「これらは学園創設時に編み込まれた演術です。破れません。例外もありません」


その言葉にニーナがはっと息をのんだ。


「……演術?」


ローゼンフェルトは頷く。


「学園を創設した三人が編み出したものです

今もこの場所そのものに組み込まれている」


「そんな……」


ニーナは愕然としている。


「ノウスって……」


言葉を探す。


「火を起こしたり、風を動かしたり……

ちょっとした現象を起こすものじゃ……」


今までノウスは“便利な技術”か、“危険な力”のどちらかだった。

少なくとも――


人を閉じ込めたり

生き死にを制御したり

そんな話は、聞いたことがない。


「……ありえない」


ニーナの声は震えていた。

恐怖ではなく、常識が崩れたときの揺れだった。

少し3番達と似ていた。


ローゼンフェルトは少しだけ目を細めた。


「多くの人がそう考えています

だからこそ、ここは必要なのです」


口調は厳しい。

だが、否定ではなかった。


「ノウスは現象を起こすためだけのものではありません。仕組みを作り、保ち、制御するためのもの」


アルスは背中が冷えるのを感じた。

それは剣や炎よりもずっと強く、一方的な力だった。


「……じゃあ、どうすれば?」


ニーナの声が少しだけ震えた。


「幸い、少ししたら長期休暇があります。」


ローゼンフェルトはきっぱりと言ったあと、

ほんのわずかに声の調子を落とした。


「安心しなさい。あなたたちを危険な目には遭わせません」


その言葉は約束だった。


「学ぶ義務も、強制しません。

ただし――」


一拍置く。


「ここにいる間はルクテリオの生徒です」


厳しい宣告だった。


だが、次に続いた言葉は少し違った。


「無理はさせません。学園は──」

「守るためにある、ですか」


「…ええ」


ローゼンフェルトは言い切る。


「子ども達を、学ぶ者達を」


アルスはその言葉の重さを理解した。

優しさではない。

責任だ。


アルス達は学園長室を後にした。


部屋を出たあと、

ニーナが小さく息を吐いた。


「……怖かったぁ」


「でも」


アルスは続けた。


「なんだかんだ優しそうな人だったね」


中庭の端まで来ると、夕方の光が石畳を斜めに切っていた。

高い柵の向こうにヴァルドとジークの姿がある。


二人とも、最初からそこにいたかのように動かなかった。


「……話は終わったか」


ヴァルドが低く尋ねる。


アルスは頷いた。


「出られないって」

「長期休暇まで」


ジークが舌打ちをした。


「やっぱりか。さっきから様子がおかしいと思ってたんだよ、この城」


「城じゃないらしい」


アルスは言う。


「ルクテリオ、って学園だって」


「学園……?」


ジークは眉をひそめた。


「にしちゃ、物々しすぎだろ」


ニーナはまだ塔から視線を離せずにいた。


ジークは腕を組み、柵越しに二人を見た。


「で、どうする?引きずり出すか?」

「無理だよ」


アルスは首を振った。


「仕組みそのものらしい」


ヴァルドも同意するように頷く。


「力で開ける扉じゃないようだ」


沈黙が落ちる。


夕風が吹き、学園の旗が静かに揺れた。


「……俺たちは、外にいる」


ヴァルドが言った。


「ここは安全だ。少なくとも、生きてはいられる」


それは彼なりの判断だった。


「休暇まで待つ」

「それが一番確実だな」


ジークは渋い顔をしたが、やがて肩をすくめる。


「出れた時は、文句の一つも言わせてもらうぞ」


「……ごめん」

「言うな」


ヴァルドは短く言った。

柵越しに、視線が交わる。


外にいる者と、内にいる者。

同じ旅をしてきたはずなのに、

今は、立っている場所が違う。


鐘の音が鳴り、学園に夜が落ちた。


アルスは振り返り、ルクテリオの塔を見上げる。


ここで何を学ぶのか。

何を知ってしまうのか。


それは、まだ分からない。

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