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らけんばるらりでゅーさ・かるさんぽく・たいげめ  作者: chiroru
商人の国 ルグーナ

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第8章 正しさの外側で

倉庫の奥で子どもたちが3番を抱きしめている間。


ジークは床に転がっていた男のひとりを無言で引きずった。


「……な、なにする……!」


返事はない。


もうひとり、

そして三人目。


抵抗する力はもう残っていなかった。


ジークは檻の前に立ち、中を一度だけ確認する。


さっきまで3番が入れられていた場所。


3人目のポケットにあった鍵を回し、扉を開ける。


「や、やめろ……!冗談だろ……!」


ジークは淡々と言った。


「冗談で子どもを始末する予定だったのか?」


答えを待たず男を放り込む。


ガンッ。


残り二人も同じだ。


檻の中で大人たちが折り重なる。


ジークは扉を閉め、鍵をかけた。


カチリ。


「な、何のつもりだ……!」


ジークは檻越しに男たちを見る。


「安心しろ。殺しはしない」


男たちの顔に一瞬だけ安堵が浮かぶ。


だが、その次の言葉で凍りついた。


「この檻、中からは開かない。

 そして……」


ジークは倉庫の入口の方へ視線を向ける。


「次に人が来るのはいつかな?」


男たちは言葉を失った。


「自分たちが使ってた檻だ。使い勝手も、中の具合も……よく知ってるだろ」


鍵をポケットにしまいジークは踵を返す。


「せいぜい、“正しさ”について考えてろ」


檻の中から怒鳴り声と罵声が飛ぶ。


だが、それに振り返る者はいなかった。


───────────────


アルス達は完全に沈黙している。


ヴァルドは一度だけ周囲を見渡し、剣を収めた。


「……終わったな」


そう言うと彼はもう興味を失ったように踵を返す。


「帰るぞ」


アルスはその背中を見て立ち尽くした。


檻から解放された3番は

1番と2番、4番に抱きしめられていた。


泣き声が、

小さく、でも確かに響いている。


(……助かった……)


胸の奥がゆっくりとほどけていく。


だが次の瞬間、別の思いが浮かんだ。


(……でも……)


(……この子たち……盗みをしてた……)


正しかったわけじゃない。

被害者がいた。

許されることじゃない。


その考えに囚われかけたとき──


ヴァルドが振り返らずに言った。


「俺たちはこの国の人間じゃない」


低く、淡々とした声。


「正義の味方でもない。裁く権利も、導く義務もない」


一拍、間を置いて。


「……放っておけ」


アルスはその言葉を胸の中で転がした。


そして、

静かに息を吐いた。


「……うん」


それでいい。

それ以上でも、それ以下でもない。



1番が仲間を抱きしめたまま顔を上げた。


そして、

ゆっくりと立ち上がる。


2番、4番、3番も続く。


4人は揃ってアルスたちの前に立ち──


深く、頭を下げた。


「……ごめんなさい」


1番の声はまだ震えていた。


「杖を盗んでごめん。あなたたちにひどいことも言った」


2番が続く。


「……それでも……助けてくれて……ありがとう」


ニーナは腕を組んだまま、

ふうっと息をついた。


「感謝はいいわ。でも謝る相手は、私たちだけじゃないでしょ」


1番と2番は、

小さく頷いた。


そのとき──


4番がつぶやく。


「……わたし……」


声が小さい。


「……なにもできなくて……

 泣いてただけで……ごめんなさい……」


1番がすぐに首を振る。


「しょうがないさ。4番は悪くない」


2番も低く言う。


「怖かったんだろ。当たり前だ」


4番は俯いたまま、

ぎゅっと拳を握る。


ニーナはその前にしゃがみ、そっと4番の頭に手を置いた。


「いいのよ。まだ小さいんだから」


やさしく撫でながら、

けれど真っ直ぐに言う。


「でもね。今日悔しかった気持ちは、忘れないで」


4番がおずおずと顔を上げる。


「……どうして?」


ニーナは微笑んだ。


「いつか、仲間を助けたいって思ったとき」


「その悔しさが、あなたを動かすから」


一瞬の沈黙。


そして──


4番は強く、はっきりと頷いた。


「……うん!」


その笑顔は少しだけ大人びて見えた。


その胸の奥で、


“目指すべき人”


がそっと形を持った。



ヴァルドはすでに倉庫の外に向かっている。


ジークが肩をすくめて続き、

アルスとニーナも歩き出す。


彼らはヒーローじゃない。

裁きもしない。

導きもしない。


ただ、

旅を続ける。


背後で、

子どもたちの声が重なった。


「……ありがとう!」


アルスは振り返らなかった。


でも、

その声が、

確かに胸に残っていた。


──────────────


さっきまでの倉庫の空気が嘘みたいに、

石畳を踏む音だけが響く。


アルスは歩きながら思い出す。


あのとき床に広がった、

大きな演術陣。

光の線。

空気の震え。


思わず言った。


「……ニーナ、すごかったね。

 あの演術陣?……正直、鳥肌立ったよ」


ジークも軽く頷く。


「あれは凄かった。あの場にいた連中が怯んだのも無理はない」


ニーナは前を向いたまま、ふんっと鼻を鳴らした。


「え?ああ、あれ?」


「うん。あんな大きなの、出来たんだ」

「大技だったな。切り札、ってやつだ」


ニーナは少し考える素振りをしてから

あっけらかんと言った。


「んー……あれ、別にすごい演術を発動しようとしたわけじゃないわよ」


「……え?」

「……どういう意味だ?」


ニーナは歩きながら、杖をくるっと回す。


「最初に見せたでしょ?軽いものを、ちょっと浮かせるやつ」


「う、うん。あれがニーナの今できる演術だよね?」


「そうそう。あれと同じ式」


二人が足を止める。


「……同じ?」


ニーナは振り返って人差し指を立てた。


「ただね。本来は“省略”して組むところを今日は全部、省略しなかっただけ」


「省略……?」


ニーナは少し考えてから、

噛み砕いて言う。


「たとえばね、1×5って、一瞬で書けるでしょ?」

「うん」


「でもそれを

 1+1+1+1+1

って全部書いたの」


ジークが、なるほどという顔をする。


「……見た目だけが、やたらと大きくなる」


「そういうこと」


ニーナは肩をすくめる。


「式の規模が大きく見えただけ。

 中身は、最初に見せたのと同じ」


「じゃあ……あれ、ハッタリ……?」


「ハッタリ!」


即答だった。


「もしあれで怯まずに、

 本気で突っ込んできてたら……」


一瞬だけ、

ニーナの目が細くなる。


「正直、終わってたわね」


「えぇ!?」


ジークは低く笑った。


「……命懸けのブラフか」


ニーナはケロッとしている。


「そうそう。演術陣ってね、

 “何をするか”より

 “何が起きそうに見えるか”の方が大事なときもあるの」


アルスはあのときの光景を思い返す。


(……大きくて、強くて、

何かとんでもないことが起きそうで……)


でも、それを使った本人はちゃんと限界を分かっていた。


「……ニーナ、すごいよ」


アルスは正直に言った。


「強いとかじゃなくて……

 ちゃんと、自分の出来ること分かってて……

 それで、ああいう場面で使えるの……」


ニーナは少しだけ照れたように、

そっぽを向く。


「……当然でしょ。目指してるのは極めることなんだから」


ジークが前を向いたまま言った。


「良い演算者だ。」


ニーナは鼻で笑う。


「無茶はするわよ。

 でも、“死ぬ無茶”と“生きるための無茶”は分けてるだけ」


アルスは苦笑した。


(……やっぱり、ニーナ、強いな……)


それは力の話じゃない。

判断と覚悟の話だ。


ルグーナの街灯が少しずつ遠ざかっていく。


彼らはまた、

ただの旅人に戻っていた。


次の国へ向かって。


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