第7章 正しさの檻、疑いの枷
バンッ!!
扉が蹴破られ、
冷たい空気が倉庫の中から吐き出された。
「3番!!」
1番の叫びは、
怒鳴り声であり、
祈りでもあった。
倉庫の中は広い。
がらんどう。
天井の梁から吊るされた古いランプが、
ぼんやりと黄色い光を落としている。
そして──
「……っ!!」
2番が息を呑んだ。
倉庫の奥。
鉄の檻。
その中に──
3番がいた。
衣服は裂け、
顔には殴られた跡。
唇は切れ、
腕には紫色の痣。
床に座り込んだまま、
顔を上げる力も残っていない。
「……3番……?」
4番の声が震える。
1番の視界が一気に赤く染まった。
「……何してるんだよ……」
檻の前には3人の大人が立っていた。
粗末だが体格のいい男。飄々としている男。
もう一人は細身で、目だけが妙に冷たい。
「おいおい、追加でガキが来るとは聞いてねえぞ」
「しかも全員か。信仰が足りなかったみたいだな?」
その言葉に、1番が吼える。
「……てめぇら!!3番に何した!!」
大人は肩をすくめる。
「確認に来たんだろ?
“正しいかどうか”。
だから教えてやっただけだ」
「……っ」
「裏切りそうなガキはな、早めに“現実”を叩き込まねえと」
その瞬間──
外から見ていたアルスたち
アルス達は倉庫の割れた壁板の隙間から中を覗いていた。
「……っ……」
喉がひくりと鳴る。
ニーナの手が、無意識に震えた。
「……あれ……3番……?」
ジークは一瞬で状況を理解した。
「……檻。暴行の痕。
洗脳から外れかけた個体の処理……」
ヴァルドの目が細くなる。
アルスは胸の奥がぐちゃぐちゃになるのを感じていた。
(……助けるとか……
正義とかじゃない……)
ただ、
あれは、放っておけない。
ニーナが歯を食いしばる。
ジークが短く言う。
「さてと」
ヴァルドが一歩前に出る。
「行くぞ」
次の瞬間。
1番が、震える声で吐き出す。
「……っ………っざけんなよ……」
拳を握りしめ、
涙を堪えながら叫んだ。
「……正しいって……言ったじゃないかよ……!!」
1番の声は震えていた。
怒りでも恐怖でもない、
信じていたものが壊れかけた音だった。
檻の前に立つ大人のひとりが、
面倒くさそうに舌打ちする。
「はぁ……だからガキは嫌いなんだ」
もうひとりが、3番を見下ろしながら言った。
「“正しいかどうか”なんて聞いてきた時点でアウトだろ」
「疑う奴はな、遅かれ早かれ裏切る」
3番の身体がわずかに震えた。
「……ちが……ぼくは……」
「黙れ」
三人目の男が冷たい声で続ける。
「コイツはもう“使えない”。だから今朝、警備に始末されたとお前らに伝えるつもりだったんだがな」
一瞬、空気が止まった。
「……始末?」
1番の声が、ひどくかすれる。
「……殺す、つもりだったのか……?」
男は肩をすくめた。
「ガキ一人だろ。お前らだって“役に立たない奴”は置いていかれるだろ?」
その言葉が、
完全に一線を越えた。
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
1番と2番が同時に飛び出した。
怒りと恐怖と混乱を、
全部ぶつけるように。
だが──
「……っと」
大人のひとりが軽く拳を振る。
ドンッ!!
1番は壁に叩きつけられ、
2番は腹を蹴られて床を転がった。
「がっ……!」
「う、あ……っ……」
力の差は、
あまりにも明確だった。
殴られ、蹴られ、
起き上がろうとしては倒される。
1番は歯を食いしばり、
それでも立とうとして──
「っ……!」
膝が笑い、
その場に崩れ落ちた。
悔しさで涙が止まらない。
2番も同じだった。
「……くそ……っ……」
4番は、
少し離れた場所で震えながら、
両手で口を押さえている。
声も出せない。
その瞬間。
「──もういい」
ヴァルドが低く言った。
次の瞬間、
大人の背後に“影”が落ちる。
「なっ──」
ゴッ!!
一人目が床に沈む。
ジークも動いた。
無駄のない動きで距離を詰め、
関節を極め、壁へ叩きつける。
「相手は子どもだぞ。殺すつもりだった?」
男が笑おうとした瞬間、ジークの拳が腹に入った。
「……答えなくていいさ」
同時に
ニーナとアルスは檻へ向かっていた。
「鍵……どこ……!」
ニーナは必死に鍵を探す。
アルスは工具もなく、
鉄格子を見つめるしかない。
「くそ……!こんなの……!」
檻の中で、
3番がかすれた声で言った。
「……ごめん……
ぼくの……せいで……」
ニーナが即座に言い返す。
「謝らない!!悪いのはあいつらよ!!」
だが、
鍵は見つからない。
アルスの手が震える。
(……ここにあるものでどうにか開けるしか…考えろ…)
その光景を床に伏せたまま2番が見ていた。
(……なんで……)
(……なんで、あいつら……仲間でもないのに……)
歯を食いしばり、
視線を上げた瞬間──
見えた。
リーダーの男のポケット。
そこから覗く見覚えのある装飾。
(……杖……!)
2番は、
なりふり構わず這うように近づき──
ガブッ!!
「ぐあっ!?」
男の腕に、
2番が噛みついた。
「この……クソガキ!!」
その光景を見て1番の中で何かが弾けた。
(……違う)
(……ぼくは……ぼくが……導かなきゃ……)
(……2番も、4番も、3番も……弟みたいな、妹みたいな……)
(……なのに……2番が先に動いている……)
胸が、
焼けるように痛んだ。
「……っ……」
1番は転がるように立ち上がり──
全力で突っ込んだ。
「うおおおおお!!」
体当たり。
力も技もない。
ただ、
必死だった。
男がよろけた瞬間、
ポケットから何かが飛び出す。
1番はそれを掴み──
叫んだ。
「うけとれぇぇ!!」
全力で、
投げた。
宙を舞う杖を、
ニーナは両手で受け止めた。
「ここはいいからあっちに加勢して!!」
アルスの叫びに、
ニーナが振り向く。
「……了解」
手の中に戻ってきたものを握りしめた。
「……来なさい……」
宙に大きな演術陣が展開される。
今までとは比べ物にならない規模。
光が走り、空気が震える。
「なっ……!?」
大人たちが怯んだ、その瞬間。
ヴァルドが踏み込み、
ジークが畳みかける。
そこに──
1番と2番も、
歯を食いしばって加わった。
「うああああ!!」
もう、
勝ち負けなんて関係ない。
殴り、倒し、
二度と立てないように。
そして
ガチャン。
ついに檻が開いた。
3番が、
崩れ落ちる。
「……っ……」
1番が、
2番が、
4番が──
一斉に抱きついた。
泣き声が、
倉庫に響く。
アルスたちは、
少し離れた場所でそれを見ていた。




