第6章 疑いは走り出す
朝の静けさを破るように宿の扉が乱暴に叩かれた。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
「な、なによ!? 朝から騒がしい!」
アルスは寝ぼけたまま扉へ向かう。
「はいはい、今開けますから──」
扉を開いた瞬間。
ガッ!!!
「っ……!!?」
小さな手がアルスの胸ぐらを掴み、そのまま壁に叩きつけた。
1番だった。
目は充血し、息は荒く、
怒りで顔が真っ赤だった。
「3番に!!!
何を吹き込んだ!!!」
「ま、待っ──苦しい……!!」
「ちょっと!! 離しなさいよ!!」
2番も後ろから怒鳴る。
「3番が居ないんだ!お前たちが何かしたんだろ!!」
4番は泣きじゃくり、1番の服を握りしめている。
「……1番……こわいよ……」
1番はアルスを揺さぶりながら叫ぶ。
「3番に何をしたんだって!!!」
その瞬間──
ヴァルドが素早く動いた。
1番の腕をつかむ。
小さな手首とはいえ容赦はしない。
「離れろ。」
ミシッ……!
「っ……!!」
痛みで耐えきれず1番の手がアルスの胸ぐらを放した。
アルスはゼェゼェと息をし、壁にもたれかかる。
しかし──
1番の怒りは収まっていない。
腕を押さえ、涙のにじむ目でヴァルドを睨む。
ヴァルドは静かに答える。
「感情で動くな。状況を説明しろ。」
「説明なんて──!!
お前たちが3番に何か言ったから──!」
「落ち着けって。」
背後からジークの低い声が響いた。
1番が振り返る。
ジークは髪を整えながら出てきて、
淡々と話し始めた。
「いいか、1番。まず昨日、俺たちは3番に何も吹き込んでない。ただ、本当に正しいか問いかけただけだ」
「嘘だ!じゃあ3番はどこに…!」
1番の脳裏にあの人達が浮かぶ。
3番があの人達のもとに向かったのなら無事であるはずなのに何故か安心できない。体を急かす心臓が落ち着かない。
耐えきれず1番が叫んだ。
「行くぞ!!
“あの人たち”のところだ!!」
2番と4番がすぐさま後に続き、3人は宿の前から一気に走り出した。
ジークも叫ぶ。
「オレ達も追うぞ!杖があるとしたらあいつらの向かった先だ!」
ジークが叫んだ時点で動いたヴァルド、意思を伝え動き出すジーク、杖のことを思い動くニーナ、みんなが動いたことで焦って追いかけるアルスの順で走り出す。
「ちょっ……速っ!!」
「やばっ……!!追いつけるかな……!」
「走れ。杖を取り返す機会を逃すな。」
アルスたちは慌てて後を追う。
ただし──
1番たちには絶対に気づかれないように。
ニーナはマントを押さえながら走り、
ジークは冷静に距離を保つ。
「なんであんなに速いの……!?子どもなのに……!」
「焦りは時に大人より速く走らせる。お前も頑張れ。」
「追いかけてるってバレたくないのよね!?
だったらアルス、もうちょっと静かに!」
「む、無理だよ!!」
そのやり取りの最中──
屋根瓦を蹴る音がした。
カンッ、カンッ──
ニーナが顔を上げる。
「え……えっ!? ヴァルド!?」
ヴァルドが屋根の上を影のように駆け抜けていた。
足音らしい足音はなく、
ただ風のように滑るような動き。
「は、速っ……!?」
「流石に人間離れしてるな……あれ。」
「追跡はあの人に任せた方がよくない!?」
「いや、俺たちも行くぞ。ヴァルド一人では向かった先で動ける範囲が限られる。」
「はぁっ、はぁっ……なんで追跡なのに全力疾走なの……」
「旅は体力だ。」
「鍛えなさい!!」
──────────────
1番たちは街外れの人気のない路地へと飛び込んだ。
やがて──
「止まれ!」
2番の声がして、3人の足が止まる。
その視線の先に古びた廃倉庫が立っていた。
板壁は割れ、
窓は外れ、
明らかに使われていない建物。
だが、足跡や物音の気配はある。
1番の顔が強張る。
「……ここだ。」
その時。
カサッ──
わずかに屋根の影が揺れた。
アルスが息を止めながら路地に身を潜め、
そっと視線を上げると──
ヴァルドが倉庫の屋根の上から子どもたちを見下ろしていた。
完全に気配を消している。
風に溶けるような静かな存在。
ニーナ達は小声で話す。
「えっ……もう着いてる……
ていうかどうやって飛んだの……?」
ジーク
「聞くな。意味がわからんから。」
アルス
「と、とにかく……もうすぐ倉庫に入っちゃうよ……!」
子どもたちはまだ
後ろにアルスたちがいることに気づいていない。
1番が拳を握りしめた。
「……中にいるはずだ。
3番にも何も無いはず……」
「きっと大丈夫だろ。」
「…………3番……」
1番は扉に手をかけた。




