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らけんばるらりでゅーさ・かるさんぽく・たいげめ  作者: chiroru
商人の国 ルグーナ

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第3章 影を追う

杖を盗まれたあと、

4人は広場のベンチに集まった。

ニーナは腰に手を当てて宣言する。


「まずは手がかりね!

 犯人がどこに逃げたか追わなきゃ!」


ジークが軽く笑う。


「おう、じゃあ早速聞き込みだな。この街、裏も表も人が多いから、情報は転がってるはずだ。」


ヴァルドは頷いて立ち上がる。


「時間があればあるほど盗品は遠くへ運ばれる。

分かれて動くぞ。」


アルスは考えて言った。


「じゃあ、ヴァルドは一人で動けるし……

 僕とニーナ、ジークさんの三組に分かれよう!」


「決まりね!」


こうして3方向に散った。




ヴァルドは市場の一角、

薄暗く湿った裏路地へと進んだ。

木箱が積まれ、風が抜けると古い布がぱたぱた揺れる。

路地の奥に座っていた店主にヴァルドが低い声で話しかけた。


「聞きたいことがある。」


店主は顔も上げずに悪態をつく。


「ここら辺は旅人なんかが来るところじゃねぇぞ。さっさと──」


店主がそこで言葉を止めた。


ゆっくりと顔を上げ、

ヴァルドの顔を見た瞬間──


「ひっ……!!」


腰を抜かしそうになって後ずさった。

闇夜を照らす月のように黒い体毛に浮かぶ琥珀色の瞳、チラリと光る牙、巨体に似合う大剣。


「な、なんだあんた……いや、その……ええと……!」


ヴァルドは無表情のまま一歩近づく。


「聞きたいことがある。ここらで有名な盗賊はいるか?」


その声音は怒っているわけでもなく、

威圧しているつもりでもない。

ただ“揺らぎのない刃”のように真っ直ぐだった。


店主は完全に飲まれていた。


「と、盗賊?

盗賊かは分からねぇが最近黒いフードの奴が何回もここらを走り回ってる!!それだけしか知らねぇ」


「そうか。」


背を向けて立ち去るヴァルドを、

店主は顔を硬直させたまま見送った。


「……なんだったんだ……」




市場の中央は、まるで祭りの日のようだった。

色とりどりの布、焼ける匂い、楽器の音、笑い声。


ジークはその真ん中を歩きながら、

少しだけ肩を竦めていた。


(すっげぇ街だな……

 こりゃ聞き込みも骨が折れそうだ。)


彼は果物屋の屋台に近づき、にこやかに声をかける。


「よぉ親父さん。ルグーナって活気すごいんだな!」


親父は笑い返した。


「おうよ、外から来たのか?」


「まぁそんなとこ。ちょっと聞きたいことがあってさ。」


ジークは客っぽい気楽な雰囲気を崩さずに言う。


「なぁ親父さん。最近“手癖の悪い連中”見なかったか?」


親父の顔色が少し変わった。


「ああ……その事か。最近ちょっとした騒ぎでな。」

「騒ぎ?」


「ああ、最近物盗りの被害が増えてるらしくてな。

気付いたら物がなくなってる。小柄なフードの奴

って話だ。」


ジークは眉を寄せながらも軽口を挟む。


「はは、幽霊みたいだな。」

「幽霊ならまだマシだ!あいつら現実の物を持ってくんだからよ!」


親父が机を叩く。


「体は小柄で人混みに紛れるし速すぎて見失うんだってよ。酒屋のジジイなんて2日連続で金を盗られたらしい!」


ジークはあえて深追いしない。


「ありがとよ。助かった。」


「気を付けな!って何か買ってけ!!」


ジークは片手を上げて去っていった。


(……さて。どうすかな)




ニーナが鉄板焼き屋のお姉さんに声をかける。


「ねぇ! さっきね、私の荷物が盗まれちゃったの!怪しいヤツ見なかった?」


お姉さんは手を止めて、

眉をしかめながら考え込む。


「うーん。最近ちょくちょく見るわね。

 まるで風みたいにすばしっこくて、

 すぐ誰かの足元をすり抜けていくの。」


「姿は……?」


「見えないのよ。帽子なのかフードなのか……

光が当たっても顔が見えない。ほんとに“影”って感じ。」


「きっとヤツね」

「走っていく方向とか分かります?」


お姉さんは屋台の端から指を伸ばし、

細い路地を示した。


「この先。陽が当たらなくて薄暗いけど……

あそこ、最近よく影が走ってくのよ。夫は何人かでの犯行だ!って。根拠は無いけどね」


「複数かぁ。」

「ありがとう!! 戻ったら買いに来るからね!」


「ほんとぉ〜? 約束よ〜!」


人混みを歩きながらニーナはケロッとした顔で言った。


「いやー、けっこう情報集まったじゃん?

 影! 速い! 小柄! 複数!」


「でも……正体はわからないままだよ。」

「だから捕まえるのよ。

 きっと私たちならいけるわ。」


歩く二人の頭上では、布屋の風鈴が綺麗な音を鳴らしていた。




夕暮れのルグーナは昼とはまるで別の顔を見せていた。屋台の灯りがともり、遠くの通りで笛の音が響く。

四人が泊まっている宿の窓からは街灯の光がぼんやり差し込んでいた。


アルスたちは二階の小さな部屋に集まり、地図をテーブルに広げた。


ニーナは椅子に勢いよく腰を下ろすと机に両手を叩きつけて言った。


「で! どうだった!?」


ジークは包んでいた果物を机に置きながら答えた。


「ルグーナって聞き込みだけでこんなに歩かされる国なのかよ……

まぁ結論から言えば──“影のようにすばしっこい何かがいる”。どこの店もそればっかだ。」


アルスは頷きながらメモを取る。


「僕たちも似たような感じだった。

 “顔は見えない”、

“すごく小柄で速い”、

 “複数いるかもしれない”。

ただそのくらいで……正体は全然わからない。」


ニーナはふんぞり返って腕を組む。


「小柄ねぇ……。」


ジークは考え込む。


「ここらの住民にとっちゃ、もう“謎の影”扱いだな。」


「ヴァルドは?」


ヴァルドは壁にもたれたまま、腕を組んで低く言う。


「市場裏で奇妙な証言を得た。木箱の影を通り抜けるように、“複数の影が同時に動いた”と。」

「複数……やっぱり集団なんだ……」

「集団!? なんでそんなに動きが揃ってるのよ!」

「練度が高いのか、あるいは……誰かが統率しているのかもしれない。」


部屋の空気が一瞬だけ静かになった。

しかし、すぐにニーナが立ち上がる。


「もう! 影とか動きが速いとか、そんなぼんやりした情報ばっかりじゃ何もわかんないじゃない!」


ジークは彼女をなだめるように手を振る。


「まぁまぁ。でも共通点はしっかりあるぜ。

 “必ず裏路地へ逃げる”。

そして“捕まった話はひとつもない”。

この2つは確実だ。」


アルスは地図を指差す。


「逃げ道は全部……この細い路地に集中してるんだね。」

「あっ、ほんとだ!」

「……狩場として選んでいる可能性が高い。」

「狩場?」

「あそこは入り組んでいて、昼でも暗い。地元の者でなければ迷いやすい。

影の正体がそこに潜んでいるなら……外の者には捕まえられない理由になる。」


ニーナは机に身を乗り出す。


「じゃあさ、捕まえればいいのよ!」


ジークは笑って肩をすくめた。


「ただ捕まえるって言ったってなぁ……

影みたいに速いんだろ?簡単に捕まえられないから困ってるんだろ」


ニーナは自信満々に言う。


「なら囮よ!」

「えっ」

「…………」

ヴァルドは目だけニーナに向ける。

ニーナは胸を張って宣言する。


「私を囮にするの! マントで杖を持ってる“風”を出せば釣れるでしょ!?」


「そんな簡単に釣られたら苦労しないよ!!それに危ないよ!」

「じゃあアルスも囮になる?」

「な、なんでそうなるの!?」

「見るからに世間を知らなそうだからよ」


ジークは笑いながら手を叩いた。


「いいじゃねぇか。ダメ元でやってみよう。」

「ジークさんまで!?」


ヴァルドは短く言い放つ。


「決まったな。」


ニーナはすでにやる気満々で、

机に手をついて前のめりになる。


「いい? 計画はこう!

 アルスと私は普通に市場を歩く。

 ジークが後方で監視。

 ヴァルドは近くの路地への道に待機──」

「……お、なんかそれっぽいじゃん。」

「動きは把握した。問題ない。」

「ぜ、全然問題だらけなんだけど!?」


ヴァルドは立ち上がった。


「作戦決行は明日の朝だ。」


「了解!」

「了解だ!」

「ええー?!」


ジークとニーナは大笑い、

ヴァルドは表情を変えないまま腕を組み、

アルスだけが必死に否定していた。


それでも、

4人の意志はひとつだった。


「杖を取り返す。」


そのために、翌朝──

作戦は実行される。

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