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らけんばるらりでゅーさ・かるさんぽく・たいげめ  作者: chiroru
商人の国 ルグーナ

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第1章 赤と黒、出会いは旅路にて

セルアを出たアルスとヴァルド。道中で馬車を拾い商業が盛んな国、ルグーナに向かっていた。


丘を越えた先、道の脇に馬車が止まっていた。

片輪が外れ、車軸が折れている。

馬がいら立つように足を鳴らしていた。


「どうしたのかな?」


アルスは気になり窓から顔を出すがヴァルドは見向きもしない。

近くでは三人が右往左往していた。

年老いた御者、赤い外套の少女、そして黒い外套の男。

若い男が車輪部の近くにしゃがみこみそれを少女が眺めている。

アルスは自分たちの御者に声をかけた。


「手助けするのか。」


ヴァルドが問う。


「うん。放っておけないし。この馬車にはあんなに乗せれないしね。」


ヴァルドは溜息をつきながら身支度をする。

アルスは馬車から降り御者にお礼を言って少女達に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


少女は急な声掛けに驚きながら顔を上げる。


「見ての通りよ。車輪が外れたの。近くの国までまだまだあるってのに」

「ちょっと見せてください。」


アルスは膝をつき、車軸を確かめた。

金具の歪みと割れ。少し削って合わせれば何とかなる。

アルスは愛用の金槌を取り出し手際よく作業を進め、金具を叩き込む。それを他は黙って眺める。

数分後、車輪は静かに回った。

少女が目を丸くした。


「本当に……直ったの?」

「応急処置ですけど、しばらくは大丈夫。」


アルスが笑う。

男は軽く息をつく。


「いやーありがたい。歩くのはごめんだからな。」


少女が頷いた。


「助かったわ。」


アルスが手を振る。


「いえ。ちょうど通りかかっただけなので。」

「近くの国まで行くんでしょう?

だったら、乗っていけばいいわ。お礼も兼ねて。」


ヴァルドが口を開く。


「目的地はどこだ?」

「ルグーナよ。」


アルスがヴァルドと視線を交わす。


「同じだね。」


ヴァルドは短く頷く。


「私はニーナ・アステリアよ。あっちはジーク…なんだっけ」

「ハルトマンだ」


少女が自分の胸と男を指して言った。


「一緒に旅してるわけじゃないわよ。たまたま乗り合わせただけ。」

「そういうわけだ。」


とジークが付け加える。

アルスが小さく笑った。


「じゃ、行きましょう。」


ニーナが扉を開け、手招きする。


「狭いかもしれんが遠慮しないでくれ」


グレンがぼそりと付け加えた。

ヴァルドは小さく息を吐いた。


「……世話になる。」


夕陽が沈み、四人を乗せた馬車はゆっくりと東へ動き出した。



馬車は砂の道をゆるやかに揺れながら進んでいた。

乾いた風が窓に触れ、その向こうには淡く白んだ草原が広がっている。


アルスは、向かいに座る少女──ニーナの膝に目を止めた。

彼女の膝の上には杖が乗っていた。

先端の青い結晶が馬車の揺れに合わせて静かに脈動している。


「……それ、何?」


思ったままの疑問が、アルスの口をついて出た。

ニーナは杖を軽く持ち上げ、少し不思議そうに首を傾げる。


「杖よ。……もしかして、ノウスを知らないの?」


アルスは小さくうなずいた。


「聞いたこともないよ。杖が光る理由も……わからなくて。」


ニーナは本気で驚いた顔をした。


「ノウスを? 知らないの?」


その横で、ジークが口を挟む。


「文化圏が違えば“当たり前”も違うんだ。ノウスを理解できない国もあれば使わなくても不便がないから普及してない国もある。」


「……そうなの?」


ニーナはジークを見る。


「そうだ。ノウスは簡単に使えるものではないだろ。才能も必要だ。そんなものに教える施設、人材を割けない国もある。理由は様々だがノウスは地方差が大きい。」


ニーナは短く息を飲み、


「……そう。そうなのね。」


と呟いてから、アルスへゆっくり向き直った。

ニーナは杖を軽く振り、言葉を選ぶように静かに説明を始めた。


「これは演算を安定させるための杖なの。

 ノウス──人の思考を“式”にして組み立てる技術があって、演算者はそれを使って世界に小さな影響を与えるの。」


アルスは目を瞬かせる。

すぐには理解できない。

ただ、結晶の光だけが確かに目の前にある。


「思考を……式に?」

「ええ。でも、頭の中だけでは式が崩れやすいの。だからこの杖で固定するのよ。

ほとんどの演算者は、杖がないと安定しないわ。」


ジークが補足するように言った。


「技術だと思えばいい。なじみのない奴からすれば不思議に見えて当然だ。」


アルスは少しだけ表情を緩めた。


「そうなんだね。

……不思議だけれど、面白いよ。どんなことが出来るの?」


ニーナはその言葉に、ほっと柔らかく笑った。


「一人前の演術者なら……

“焚き火くらいの炎”を生み出したり数秒間痺れさせるくらいの電撃を出したりできるわ。」


青い結晶が静かに明滅する。


「そんなことが……本当に?」


アルスの声には純粋な驚きが滲んでいた。

素朴な疑問を口にする。


「じゃあ……ニーナはどれくらいできるの?」


ニーナは少しだけ頬を緩め、正直に言った。


「できるのは……ほんの小さなことだけ。」


彼女は杖の先端を軽く上げ、

馬車の床に転がっていた“指先ほどの木片”に目を向けた。

青い光がふっと強まり、

木片が ふわり と数センチだけ浮いた。


「……今の私は、この程度なの。

 この重さで、数秒が限界。」


アルス本人が聞いたものの実際に目にすると驚きで声が出ない。


少しして

「……すごい。」

と素直に呟いた。


ニーナは首を振った。


「いえ、まだ全然。“一人前”にはほど遠いわ。」


彼女は杖を見下ろし、淡々と言葉を続ける。


「ノウスの難しさは──似たものでも“一から覚え直し”になるところ。」


アルスは首を傾げる。


「どういうこと?」

「たとえば……“ある果物”の皮むきの仕方を覚えたとするでしょ。

“よく似た果物”の皮のむき方にも応用出来ると思うけどノウスではまったく別の式なの。

ゼロから覚え直しなの。」


「全部……似ていても別の式?」

「そう。

火を起こす式も、熱を保つ式も、

水を冷やす式も、空気を動かす式も、

ぜんぶ別々。」


ヴァルドは目を瞑っているが耳はこちらを向いていた。


「だから多くの演術者は、ひとつか、せいぜい二つの“得意分野”しか持たないの。」


ニーナの瞳はまっすぐ揺らぎなく光っていた。


「私は、その“全部”を学びたいの。

 ノウスを極めたい。

 式がどう生まれ、どうつながっているのか……

 自分の目で確かめたいの。」


ジークは少し笑う。


「いいじゃあねーか!大きな目標ってのは!」


アルスの前に初めて明確な目的を持って旅をする者が現れた。心が熱くなり羨ましくなった。



馬車は丘を登り、

ゆるやかな揺れの向こうで、地平がゆっくりと開けていく。


最初に気づいたのはニーナだった。

差し込む陽光を指差し、目を細める。


「……見えたわ。あれがルグーナ。」


金色の壁が、遠い空の下で輝いていた。

まるで砂漠の陽炎が形を結んだような、揺らめく光の城壁。


ジークが鼻を鳴らす。


「やっと着いたか。」


杖の青い結晶が壁の光を映して淡く瞬く。

赤い外套のニーナが息を飲み、

黒のフードをかぶったジークが静かに腕を組む。


アルスはその二人を横目に見ながら

胸の奥で何かが大きく膨らんでいくのを感じていた。


——赤と黒。

——違う人生を歩んできた二人。

——そして自分とはまったく違う道を知る者たち。


旅路の途中で出会った彼らが、

もうすでに“旅の色”を変え始めていた。


ヴァルドが短く呟く。


「……着くぞ。」


アルスはこくりとうなずいた。


馬車は四人を乗せたまま

商人の国──ルグーナへ向けて進んでいく。


その上を渡る風が、旅路の始まりを祝福するように赤と黒の外套をふわりと揺らした。


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