アルスの日記 セルア
初めての外の国、セルア
壁も工場も煙もない。
この先、どんな国に行こうがどんなものを見ようが忘れることはない
泊めてくれた宿のご飯
セルアに着いた時、最初に話しかけてくれたおじさんの奥さんと娘さんが作ってくれた
森の奥にある風の井戸
おじさんが案内してくれた
もっと豪華に飾ってあると思ってた
本当は穴から風の通る音がするらしいけど
やっぱり今は鳴らないらしい
僕らを襲って来た黒い何か
風の井戸から出てきた
影みたいだけど生き物みたいに動いてた
なんか優しい国だった。
広いのに静かで、風車が動いていないのがずっと気になった。
初めて会った外の人はとても親切に迎えてくれた。宿にも招いてくれた。
宿のごはんはあったかかった。
見たことない料理だったけど味は故郷のものに似ていた。まだ近いからかな。これからどんどん変わっていくのかも。もしかしたらバルアードを懐かしく思う日も来るのかな。
次の日、祠を見たいって言った時のヴァルドのあの一瞬の沈黙が頭から離れない。
あの人が黙る時は、だいたい“危ない”の意味だって、最近なんとなくわかってきた。
それでも行きたかった。
知らないまま進む方がもっと怖いと思ったから。
けど、本当に怖かったのはそこからだった。
正直あんまり覚えてない。とにかく走った気がする。
僕は最初、逃げようとしたのに足が動かなかった。
怖い時って本当に動けなくなるんだって知った。
でもヴァルドが来た。
黒い線をはじいた時、
風が吹いたみたいな音がした。
風なんてないのに。
あの人はやっぱり強い。
怖いくらい強い。
今日みたいな“知らないもの”を見た時、
胸の奥がまた熱くなる。
怖いのに、もっと知りたいって思う。
不思議だ。
僕たちはセルアを出る。
風は戻らなかった。
でも少しだけ、
僕の中の何かは前に動いた気がする。
もっと知りたい。
もっと見たい。
怖いけど、その気持ちが負けていない。
旅って、きっとこういうものなんだ
――アルス




