第5話 初めての試練と魔薬の応用
朝の光が森を染めるころ、アルミナはいつものように薬草を摘んでいた。
ルードとティアが手伝い、ロザリアは診療所で治療の準備を整えている。三人の存在は、アルミナにとって大きな支えだった。
「今日はどの草を使おうか……」
アルミナは袋の中の草を手に取り、慎重に選ぶ。昨日の森での毒草事件は、まだ村人の記憶に残っており、村全体が少し緊張していた。
その時、村の外れから騒ぎ声が聞こえた。
「助けて!牛が暴れてる!」
駆けつけると、村の畜産小屋で、突然暴れた牛に子牛が押し潰されそうになっていた。
「ルード、止めて!私が魔薬を!」
アルミナは急いでポーチから薬草を取り出す。赤紫色に輝く新しい草だ。異血の力を使い、鎮静効果のある魔薬を調合する。
「これで……!」
魔薬を牛の近くに振りかけると、暴れ狂っていた牛は徐々に落ち着きを取り戻し、子牛を傷つけずに静かに座る。
「……成功した……」
ティアが感嘆の声を漏らす。ロザリアも微笑む。
「アルミナさん、異血の力と魔薬の組み合わせが、ここまで役立つなんて……」
その日の午後、アルミナは一人で森に戻る。昨日の出来事で気づいたことがあった。
「魔薬は単に治癒や鎮静だけじゃなく、応用次第で生き物全体を助けられる……」
母方の異血の力が、魔薬の効力を底上げしていることを実感する。
森から戻る途中、アルミナはふと村の小川を覗く。水が濁っている――どうやら上流で土砂が流れ込んでいるらしい。
「これは……村全体の水源に影響するかも……」
アルミナは仲間を呼び、土砂の流入を抑えるための魔薬を調合することを提案する。赤紫の草を使い、水を浄化する小さな魔薬を作る。村人たちの協力も得て、少しずつ小川は澄み始める。
夕方、村人たちが集まり、アルミナに感謝する。
「追放令嬢だと聞いていましたが、君は本当に私たちの希望だ」
アルミナは微笑みながら答える。
「皆さんの力と、仲間の助けがあってこそです」
その夜、アルミナは月明かりの下で一人考える。
「私の力……まだ完全じゃない。だけど、この村での経験が、きっと私を強くしてくれる」
ルードがそっと近づき、肩に手を置く。
「君なら大丈夫だ。僕たちがついてる」
アルミナは心の奥で決意を固める。
「そうね……私は、この力で、もっと多くの人を助ける。王国のことも、いつか……」
こうして、アルミナの草薬師としての日々は、少しずつ村の生活に溶け込みながら、彼女の異血魔薬の力と仲間たちとの絆を育んでいった。そして、平穏の裏に潜む王国の影と、これから訪れる試練への準備が、静かに進んでいく――。