02 - ここは異世界?
コンドルわ!
食事を終え、近くにあった木製のテーブルに皿を置き、ベットから出て軽く身体を動かす。
不思議なことに、身体に痛みなどは全くない。
少し袖をめくり、撃たれたであろう右肩を確認するが、撃たれた痕跡は綺麗さっぱりなくなっている。
本当に、どういうことなんだろうか・・・。
私は近くに小窓を見つけ、外の様子が確認できるかもしれないと近づき、驚愕してしまう。
小窓を覗くと、日本の東京とは思えない光景が広がっていた。
高層ビルも、電車も、車もない。それに、人も少ない。
というより、昔日和と一緒に見ていたアニメや漫画の世界、まるで異世界の村のようだ。
「これは、どういうこと・・・?」
私が死んだのは東京の渋谷のはずなのに、病院にいるわけでもなく、なぜ田舎の村にいるんだろう。
それに、30階はあったビルの屋上から落ちたのに、何故私は生きているの?
つまり、私は日本で死んだことで、異世界に転生した?いや、窓にうっすらと映る自分の見た目は日本にいた時と変わりない。
ただ、うっすらとしか確認できないけど、少し違和感も感じている。
・・・わからないことが多すぎる。
外を眺めていると、またギシギシと階段を上る音がしてそちらを振り向くと、先ほどの女性が上がってきた。
「あら、もう起きても大丈夫?」
「はい、自分でも不思議なくらい。あ、シチューありがとうございました」
「いいのよ。ちゃんと食べれたようでよかったわ。そうだ、少しお話もしたいし、1階においで」
「・・・わかりました」
まずは情報が必要だと思い、私は女性の後をついて行く。
移動しながら簡単に説明されたが、女性の名前はサンリさん。ここで旦那さん、ドルドさんと食堂兼宿屋を営んでいるとのこと。
ちなみに、ソフィアちゃんは今お使いに出かけているそうだ。
私が寝かせてもらっていた場所は3階の屋根裏部屋で、ほとんど物置として使っていたらしい。
1階は食堂で、2階は宿屋になっており、私の怪我の具合から訳ありだと判断して、屋根裏の方で寝かせていたそうだ。
「ここが食堂だよ。とりあえずカウンターのとこに座ってね。私は厨房からお茶を持ってくるから」
「わかりました」
そう言って、サンリさんはカウンターの奥に行くと、私はカウンターの近くの席に座った。
数分もしないうちに、サンリさんがお茶を二つ持って戻ってきた。
「はい、お茶。お口に合えばいいんだけど」
渡されたお茶を受け取り、木製のコップを受け取った。
お茶の色は、日本でもよく見る緑茶のようだった。
一口飲んでみると、少し苦みはあるけどおいしいお茶だ。
「おいしいですね、これ」
「そう?ならよかった。この茶葉は私が栽培してるの」
「サンリさんがですか?すごいですね」
「そんなことないわよ。この村では自給自足が基本だからね」
「そう、なんですね・・・。あの、いくつか質問してもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
私はサンリさんへいくつか質問した。
ここはどこなのか、私はどこで倒れていたのか、傷はどうしてなくなっているのか。
するとサンリさんは、全て私に教えてくれた。
「ここはヴェルシアン王国のディンバエラ。エリオス=ウィル=ディンバエラ侯爵様が治める領地。エリオス侯爵様の3つの領地のうちの一つが、ここモギナ村よ」
「王国に、領主・・・」
聞いたこともない地名。なんだか本当に、漫画やアニメの世界だと思った。
領主、ということは貴族なんだろうな。異世界ものだとよくあるし。
ふと、日和が聞いたら喜びそうだなと思った。
「それから、あなたが倒れていたのは近くの森の中で、山菜採りをしていたソフィアが血だらけのあなたを見つけたの」
「そうなんですか、あの子が・・・」
確かソフィアは見た目的に12~13歳くらいだろう。そんな子供が、血だらけの人間を見てよく助けようと思えたものだ。
子供であれば、その光景を見ただけで逃げ出してしまうだろうに。
あの子がお使いから戻ってきたら、ちゃんとお礼言わなきゃね。
「あと、傷は私の回復魔法で治してあげたわ」
「回復・・・魔法!?」
まさか、本当に?いや、ここが日本ではないことは明らかだし、傷も綺麗に消えているから疑いようがなく、真実なのだろう
「あら、魔法がめずらしい?この村で魔法が使える人は数少ないけど、私やドルド、ソフィアも使えるわ」
「あんな小さい子が・・・」
「ふふっ、魔法は適正さえあれば、だれでも使えるよの。ただ、主都ディンバエラの教会で洗礼を受ける必要があるわ」
聞けば聞くほど、ここが異世界だということを実感させられる。
日和がいれば、喜びそうな話だろうな。
話しを聞いていて、ふと疑問に思った。
私がこうして生きているということは、もしかすると同時に落ちた男も一緒にこの世界にいるのでは?
「一つ聞きたいんですが、私の他に誰か近くにいたりしませんでしたか?」
「さぁ、どうだったかしら・・・。私がソフィアに呼ばれてあなたを見た時は、特に誰もいなさそうだったけど」
「そう、ですか・・・」
あの男はいなかった、ということは私は奇跡的にこの世界にきて助かった?
けど、私が助かったところで、日和が一緒じゃないと意味がない。
どうして私だけが、こうして生きているんだ・・・。
また日和のことを思い出しそうになり、目頭が熱くなる。
ダメだ、日和が死んだ姿が、また脳裏に浮かんでしまう。
「ねぇ、今度はあなたのことを聞かせてくれない?私、まだあなたの名前を聞いてないから」
黙ってうつむいてしまっていた私に、サンリさんは優しく声かけてくる。
そこでようやく、私はまだサンリさんに自己紹介してなかったことに気づいた。
「ごめんなさい。私は月渚といいます。お礼が遅くなってすいません。助けてくれて、ありがとうございました」
私は軽くお辞儀をして、自己紹介と共にお礼を言う。
こういう時、名字は言わない方がよさそうだと思って名前だけを名乗った。
「ルナちゃんね。いいのよ、見つけたのはソフィアだし、私は特に何もしてない」
「いえ。寝床や美味しいシチューをいただけましたから、何もしてないことはないですよ」
「そういってくれると、うれしいわね。それで、ルナちゃんはどうしてあそこに倒れていたの?」
「それは・・・」
どうしよう、どう説明したらいいのか思いつかず、押し黙ってしまうと、
「話し辛いことなら、無理に話さなくてもいいわよ。もし行くところがなかったら、しばらくうちにいるといわ」
サンリさんはそう言って、微笑みかけてくれた。
本当に、優しい人たちに助けられたんだなと思い、私は少し安心した。
「・・・ありがとうございます。自分自身、状況が把握できていないので、話せるようになったら話します。」
「うん、わかったわ。あ、屋根裏部屋は好きに使ってくれて構わないからね」
それから、サンリさんと村の話しを聞いた。
この村は農業や、近く森の中で狩りをすることで自給自足をしているそうだ。
ただ、森の奥に行き過ぎると、狂暴な魔物が生息しているので危険らしい。
普段は村の自警団が巡回しているおかげで、被害は起きてない。
ちなみにその自警団のリーダーが、ドルドさんなんだとか。
昔は領主のエリオス侯爵様に仕えていたらしく、騎士として活躍していたと、サンリさんは嬉しそうに話してくれた。
話しを聞いていると、夫婦円満のように伺える。
幸せそうだなと思っていると、カランカランと音が鳴り、
「ただいま~。お、お姉ちゃん!」
「あらソフィア、お帰りなさい。お使いはちゃんとできた?」
「もぉ~!子ども扱いしないでよ!」
「私にとってはあなたはずっと子供よ」
ソフィアがお使いから帰ってきたようで、とことことサンリさんに近づき、袋を渡している。
二人のやり取りをみていると、なんだか心が温かくなるのを感じた。
正直、私と日和には両親がいた記憶がない。物心ついたころには、すでに組織で生活していたから。
だから、二人のやり取りが、なんだか羨ましい。
「お姉ちゃん、もう身体は大丈夫なの?」
ソフィアが私を見て、訪ねてくる。
「うん、もう大丈夫だよ。そういえばお礼がまだだったね、助けてありがとう、ソフィア」
「うんっ!お姉ちゃんが元気になってよかった!」
そう言うと、ソフィアは両手を上にあげて喜んでいる。
その仕草が、まるで幼いころの日和にみえてしまった。
私は席を立って思わず、ソフィアをそっと抱きしめる。
「お、お姉ちゃん?どうしたの?」
ソフィアがびっくりした声を上げるが、抵抗するでもなく、受け止めてくれた。
「ごめん、ごめんね・・・。少し、このままでいさせて・・・」
「うんっ」
涙があふれそうになるのを堪えつつ、
「サンリさん、ソフィア。急にこんなことして、ごめん、なさい。私には、3つ下の妹が、いたんです。だけど、妹は・・・私を、庇って・・・っ!」
ソフィアを抱きしめた理由を伝えようとしたが、涙を耐えるのに必死だった。
すると、頭に暖かなものが触れた。
顔を上げると、サンリさんが優しい表情で、私の頭をなでてくれていた。
「そう、辛かったわね。話してくれて、ありがとう」
そう言われた瞬間、涙を流すことが我慢できなかった。
「---っ!」
私は、嗚咽するように泣いた。
そのたびに、サンリさんが優しく撫でてくれて、ソフィアもサンリさんをまねるように、私の頭をなでてくれた。
本当に、いい人たちに、助けてもらえてよかった。
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