崩れたあとに、見えた空
あの日、全てが音を立てて崩れたように思えた。
信じていた道が、足元から消えた。
一瞬にして、昨日までの日常が遠ざかり、何もかもを失ったように感じた。
けれど、不思議なことに、心は静かだった。
嵐のような現実の中で、自分の中だけが晴れ渡っていた。
「もう、元には戻れない」
そう思うと、逆に力が抜けた。
無理に戻ろうとしなくていい。演じる必要もない。
これが、本当の自分の始まりなのかもしれないと、ふと気づいた。
やりたいと思える仕事があった。
それは過去に選んだものとはまるで違ったけれど、今の自分にはしっくりくる。
誰かに誇れるかなんてどうでもよかった。
ただ、やってみたいと思った。それだけで、もう十分だった。
過去にいた人たちの顔が浮かぶ。
たくさんの笑顔と、すれ違いと、誤解と、温もり。
戻れない。それはわかっている。
もう、同じ立場では接することはできない。
でも、それでもいい。
その時間があったから、今の自分がある。
感謝と痛みは、どちらも過去の光だ。
振り返りながら、彼女は前を向いた。
崩れた瓦礫の隙間から、一本の草が風に揺れていた。
新しい風は、もう吹いている。