第44話「少し冷めたスープ」
昼下がり。
喫茶リセットの店内に、静かな湯気が漂っていた。
ドアを開けたのは、エプロン姿の女性だった。
髪を後ろでまとめ、少し疲れた目をしている。
「スープ、ありますか」
「はい。
今日は野菜のポタージュです」
女性は、ほっとしたように席に座った。
「温かいもの、
久しぶりで」
スープが運ばれる。
彼女はスプーンですくい、少しだけ息を吹きかけた。
「……あ」
「冷めていましたか」
「いえ。
ちょうどいいです」
そう言って、ゆっくり口に運ぶ。
「私、
温かいものを温かいうちに食べるのが、
苦手なんです」
「理由は」
「誰かに呼ばれたり、
急にやることが増えたりして」
スープの表面が、かすかに揺れる。
「自分のことは、
後回しで」
マスターは、静かに頷いた。
「冷めたから、
ダメになるわけではありません」
「……味、変わりますよね」
「深くなることも」
女性は、もう一口飲んだ。
「確かに。
優しい」
「急がなかった分ですね」
スプーンを置き、
彼女は肩の力を抜いた。
「全部ちゃんとしようとして、
疲れちゃって」
「今日は、
ここまでで」
「はい」
最後の一口を飲み干す。
「冷めてても、
ちゃんと満たされました」
「それなら、
十分です」
立ち上がるとき、
彼女は深く息を吸った。
「また、
温め直しに来てもいいですか」
「いつでも」
ドアが閉まり、
店内に穏やかな静けさが戻る。
喫茶リセットでは、
少し冷めた時間も、
味わいとして受け入れられる。




