第29話 「窓辺の再会」
昼下がりの喫茶リセット。
柔らかな陽光がカウンターを照らし、ゆったりとしたジャズが流れていた。
カラン――。
扉のベルが鳴り、女性がひとり入ってきた。
「すみません、ここ……まだ空いてますか?」
「もちろんです。お好きな席へどうぞ」
マスターがコーヒーを淹れ始めたその時、奥のテーブルに座っていた男性が小さく声を上げた。
「……もしかして、桜井?」
女性が振り向く。
「え? ……藤田くん?」
二人は一瞬、時が止まったように見つめ合った。
十年ぶりの再会だった。
「高校以来だね」
「ほんと……懐かしい」
マスターは二人の会話を邪魔せず、そっと二杯のコーヒーを運んだ。
カップを前に、藤田は少し照れくさそうに笑った。
「卒業式の日、桜の木の下で写真撮ったの、覚えてる?」
「もちろん。あのとき、私のカメラ壊れちゃって……その写真、結局もらえなかったんだ」
藤田はカバンを開け、古い写真を一枚取り出した。
少し色あせたその写真には、春風の中で笑う二人の姿があった。
「ずっと財布に入れてた。今日、偶然ここで会うなんて思わなかったよ」
桜井は目を細め、ふっと笑った。
「写真の中の私、なんか必死に笑ってるね」
「でも、その笑顔が好きだった」
沈黙のあと、マスターが小さく言った。
「コーヒーは、時間を巻き戻す力を持っているんですよ。香りが、記憶を呼び覚ますんです」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
あの頃よりも少し大人びた笑顔。
コーヒーの湯気が、過ぎ去った時間の境界をそっと溶かしていく。
帰り際、藤田が言った。
「この写真、今度はちゃんと渡すよ」
「ありがとう。じゃあ、またここで会おうね」
カラン――と扉が鳴り、午後の光がふたりを包み込んだ。
マスターは静かにカップを磨きながら、つぶやいた。
「再会もまた、“心のリセット”のひとつだ」
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