第24話 「忘れ物のランドセル」
昼下がりの喫茶リセット。
窓から差し込む光が床に四角い模様を描き、静かなジャズが流れていた。
カラン――。
扉が開くと、小さな男の子がランドセルを背負って入ってきた。
「こ、こんにちは……」
その後ろから、心配そうに見守る母親の姿があった。
「いらっしゃい」
マスターはやさしく声をかける。
「今日はおふたりで?」
母親が少し恥ずかしそうに答えた。
「実は、この子が昨日こちらにランドセルを忘れてしまったみたいで……」
マスターはカウンターの奥から赤いランドセルを取り出した。
「こちらですね」
男の子の目がぱっと輝いた。
「よかった……! ありがとう!」
母親はほっと胸をなでおろす。
「昨日は初めての習い事の日で、緊張しすぎて忘れちゃったみたいで」
マスターは微笑んで、オレンジジュースを差し出した。
「がんばった証拠だね。忘れ物も、挑戦のしるしになることがありますよ」
男の子はストローをくわえながら小さくうなずいた。
「ぼく、昨日はうまくできなかったけど……来週も行く!」
母親が驚いたように息を呑む。
「本当に? 行きたくないって言ってたのに」
「うん。だって、挑戦のしるしになるんでしょ?」
その言葉に母親は笑みを浮かべ、マスターに軽く頭を下げた。
親子が帰っていく後ろ姿を見送りながら、マスターはそっとつぶやいた。
「小さな忘れ物が、大きな一歩になることもある」
店内に、やわらかな笑みが流れるように広がった。
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